日経ヘッドライト:水没する世界の金利を読み解く

2019/9/8付け日経朝刊のヘッドラインは「水没する世界の金利」!長年、世界の債券市場をウオッチしてきただけに、水没という形容に至極頷いてしまいました。金利0%がまさに水面というわけです。金利の下限は0%だと思っていた大多数の日本人が、2016年1月29日の日銀金融政策決定会合で「マイナス金利」導入が決まったとき、初めてその存在を知ったのではないでしょうか。日本に先駆け、ECB、スイス、スウェーデンデンマークの中銀がすでに「マイナス金利」を導入済みでした。今や、世界でマイナス債券の残高は17兆ドル、今年になって倍増し債券全体の1/4を占めるというから驚きです。スイスでは残存45年債までがマイナス圏、これまで経験したことのない異常事態なのです。

この影響をもろに受けたのは金融機関。体力のあるメガバンクは痛手に耐えうるとしても、地銀や信金にとっては死活問題です。企業向け融資も個人向け住宅ローンも地を這うような金利しかとれませんから、今後も収益悪化に歯止めがかかることはないでしょう。

9/12東京前場取引時間中の主要国の国債(10年)利回りは以下のとおりです。金利が水面より上の米国や豪州も物価上昇率を加味すれば、実質マイナスなのです。
米国:1.7507%
ドイツ:-0.564%
英国:0.637%
オーストラリア:1.162%(かつての高金利通貨も1%ちょっと)
日本:-0.21%

ところで、過去最高の長期プライムレートをご存知でしょうか。1990(平成2)年10月適用の8.9%が最高です。1989年12月、日銀総裁に就任したばかりの三重野康氏が矢継ぎ早に金融引き締めに打って出て、翌年8月には公定歩合は6%まで引き上げられました。なぜ明確に記憶しているかというと、当時、NYに赴任中で、帰国したら取引金融機関から住宅ローンの金利を追加請求されたからです。以降、行き過ぎたバブル退治の影響で日本経済は逆回転し始め、株価も資産価格も急降下、日銀の大失策が喪われた20年と呼ばれる長期低迷をもたらしました。

金利は魔物です。高金利が経済の低迷をもたらしたように、マイナス金利も経済に負の影響を及ぼします。プリンストン大学のマーカス・ブルネルマイヤー教授らリバーサルレート論者は、利鞘の縮小に伴い金融仲介機能が低下すると警鐘を鳴らしています。前例のない異次元緩和の末に行き着いたマイナス金利の世界は、依然として、超視界不良。

一方、こんな金利環境で笑いが止まらないのは借金王のソフトバンク孫社長。4000億発行の年限7年の第56回無担保社債の利率は1.38%に決まりました。同社が2年半前に発行した7年債は2.03%でしたから、マイナス金利政策の恩恵を最大限享受した恰好です。米格付け会社からは未だ投資適格の格付けを得られないジャンク企業が、1%ちょっとの金利をつければ、いとも容易く個人投資家から資金を吸い上げられるのです。個人的には、欧州債務危機が叫ばれた時期、ハラハラしながら購入したスペイン国保証債も数年内に償還を迎えます。当時は5%超だったスペイン国債も足元0.278%。マイナス金利の到来など、当時は誰にも予想できなかったのです。