7/22、歌舞伎座夜の部「星合世十三團」を観劇。前週、主演の海老蔵さんが急性咽頭炎に罹り声が出なくなったため、3日間(15/16/18)も公演中止になっていたので(告知は以下)、開演も危ぶんでいましたが、元気な海老蔵さんを見て心底安心しました。ミュージカルなら代役が必ずスタンバイしていますし、歌舞伎とて代表的な演目であれば急病なのどの場合、代役を立てるケースは珍しくありません。
★★★★★★★★★★★★★★
歌舞伎座「七月大歌舞伎」7月16日(火)公演についてのお知らせ
歌舞伎座「七月大歌舞伎」昼の部『素襖落』(すおうおとし)の太郎冠者(たろうかじゃ)、『外郎売』(ういろううり)の外郎売実は曽我五郎(ういろううりじつはそがのごろう)、夜の部『星合世十三團』(ほしあわせじゅうさんだん)に出演をしております市川海老蔵ですが、7月16日(火)公演は下記の通りにさせていただくこととなりました。
なお、7月17日(水)以降の出演、7月15日(月・祝)と16日(火)夜の部のご入場券の払い戻し方法につきましては、決定次第、松竹ホームページにて、お知らせいたします。なにとぞご諒承賜りますよう、お願い申し上げます。
松竹株式会社
■歌舞伎座「七月大歌舞伎」
【昼の部】 ※昼の部の公演は行わせていただきます。
『素襖落』
(代役)太郎冠者 市川右團次
『外郎売』
市川海老蔵休演のため、一部演出を変更して上演いたします
【夜の部】
『星合世十三團』
市川海老蔵休演のため、公演を中止いたします
2019年07月15日
★★★★★★★★★★★★★★
ところが、「星合世十三團」は全五段の「義経千本桜」を一夜で見せるいわばダイジェスト版でしかも新作。加えて、海老蔵さんが来年十三代團十郎白猿を襲名することに因んだ十三役早替りという筋立てですから、事実上、代役が立てられないのはもとより、仮に存在したとしても代役では海老蔵さん目当てで来場した観客が納得するはずもありません。2013年に第5期歌舞伎座開場以来、初めての公演中止・払戻ではないでしょうか。海老蔵さんはふたりの幼いお子さんを抱える歌舞伎界のプリンス、休演日をもう少し設けて、息の長い役者人生を歩めるような興行的配慮が必要だと思いました。
肝心の舞台の話に戻ります。冒頭から笑わせてくれました。三桝の紋付を着た人形が座布団に座って、配役を説明します。源九郎狐、市川海老蔵!平知盛、市川海老蔵!……13役を連呼しますので会場はのっけから大盛り上がりです。
全五段をすべて見ようとすれば丸一日あっても足りません。それを海老蔵さんが13役を演じ分けて息つく暇なく早替りするという破天荒な試み。さぞや補綴・演出にあたった4人は苦労されたことでしょう。回り舞台を効果的に使って、鮮やかな場面転換も本舞台の大きな見所です。
目を凝らして早替りの瞬間を見つめていたのですが、何度も騙されました。衣装も化粧も秒単位でチェンジですし、何と言っても声色や表情の作り方が難しい。そんな役柄を見事に演じ切った海老蔵さんはやはり梨園の大看板。
二幕目第四場、それまでのスピーディな展開がまるで嘘のように時間が止まります。知盛絶命のシーンでは、大縄で身を結え錨に引きずられるように海中に消えていく血まみれの知盛の決死の表情を、海老蔵さんが巧みに演じ切ります。海中に没した後、照明が消え、会場に無数の人魂が飛び交い、3階席まで浮遊していきます。正面の幕には星が輝く夜空が映し出され、死滅した知盛が宙乗りで花道頭上へとゆっくりと消えていきます。本作のハイライトシーンと言っていいでしょう。
二段目(鳥居前)と三段目(鮨屋)は何度か見ていますが、三段目のいがみの権太、その父弥左衛門、弥助(維盛)の三役はややせわしく、「もどり」の場面をもう少し時間をかけても良かったのではないでしょうか。
五段目は初めてだったので、とても新鮮でした。海老蔵さん演じる子狐の稚気溢れる表情仕草も絶品でした。武家や庶民のみならず子狐までも同一舞台で演じ分ける海老蔵さんの抽斗の多さと懐の深さに感心しきりでした。数日前まで休んでいたとは俄かに信じられません。昼の部との休みはわずか1時間、海老蔵さんの体力とメンタルには脱帽です。
幕切れは正面幕にクローズアップされた知盛の顔、それから海老蔵さんが演じた13役が次々とプロットされていきます。拍手が鳴り止まない会場には桜吹雪が舞い散って、今年一番の幕間挟んで5時間の舞台は終幕となりました。先月の三谷歌舞伎も見所満載でしたが、古典を題材にした果敢な挑戦こそ、歌舞伎座にふさわしいと独り合点しています。惜しむらくは、もう1枚、別の日をとっておかなかったこと。