熊野古道(中辺路)を歩く

世界遺産 熊野古道 とっておきの聖地巡礼』(メイツ出版)というムックを手元に温めて5年余り、この春、初めて紀伊半島の深奥に分け入り、念願の熊野古道歩きを実現しました。といっても熊野三山へと通じる熊野古道は6つもルートがあって、今回(2019年3月22日)訪ねたのは、「中辺路(なかへじ)」と呼ばれる最もポピュラーな参詣道の一部、〈牛馬童子口〉から〈野中の清水〉に至る約5キロの道程に過ぎません。

もう少し時間が許せば、手前の〈滝尻王子〉から出発したかった。「中辺路」は、かつて上皇法皇が熊野詣で利用したルートで、〈滝尻王子〉から聖域ともいうべき山道になるからです。箸折峠を下った先の日置川(ひきがわ)では、参詣者が往時禊ぎをしたのだそうです。

東京を発って2日目、起点となる古道歩きの里「ちかつゆ」(和歌山県田辺市)に車を止めて、案内所〈古道歩き館〉で古道歩き体験コースのなかから完歩コースを選んで申し込みました(1人500円)。所要時間は3時間とあります。「ちかつゆ」はコースの中間地点にあるため、DVDのコース案内を見てから専用車で起点の〈牛馬童子口〉へ運んでもらうことになります。

お天気次第ですが、服装はハイキングや日帰り登山の要領で、スニーカーよりトレッキングシューズがベターです。

受け取った「歩きガイド」を片手に歩けば迷うことはほぼありません。標高差は全行程で200m程度です。注意が必要な箇所はスタートしてまもなく到着する箸折峠〈牛馬童子像〉のある場所、そこから道標のある地点までいったん戻って〈近露王子〉の方角へ歩を進めることです。前半はスロープも緩やかで杉木立のなかを進みます。桜の開花時期から新緑の頃には、大勢の観光客が訪れるそうです。オフシーズンだったせいでしょうか、数組とすれ違った程度でほぼルートは貸切状態でした。却って静かで良かったくらいです。

〈近露王子〉を過ぎると、アスファルトで舗装された道も一部歩きます。民家も多く、古道の風情は希薄になります。〈比曽原王子〉は山肌に祠が立っていました。さらに進むと、民宿〈いろり庵〉の女性が声をかけてくださいました。風もなく穏やかな春の光を浴びながら、終着点手前の〈継桜王子〉に予定より早く到達しました。樹齢1000年の杉の巨木や古色蒼然とした佇まいが見どころです。

とがの木茶屋〉で所定の電話番号(0739-65-0510)に連絡を入れると、〈野中の清水〉まで専用車が迎えに来てくれます。車が到着するまで、環境省「名水百選」にも選ばれた清水で喉を潤せば、たちまち旅の疲れも癒されます。

ハイキングの後の腹ごしらえは、「ちかつゆ」施設に隣接したAコープで買った和歌山名物「めはり寿司」。高菜おにぎりは素朴な味で、次回は熊野古道歩きに携行しようと思いました。