大波乱の2018年全米OP女子テニス決勝戦〜チームナオミの完全勝利〜

起床が遅れてWOWOWにチャンネルを切り替えたら、すでに第2Gが始まっていました。対戦相手は最強女王のセレナ・ウイリアムズ。大坂なおみ選手の試合運びは、SF同様、粘り強くラリーを続けるスタイル。ポイントを失えば、すかさず得意のサービスエースを繰り出しリカバリ、第1セットは6-2でつけ入る隙を与えない勝利でした。

ところが、第2セット序盤で思わぬ大波乱が起こります。観客席のコーチからアドバイスを受けたと警告を受け、これに納得しないセレナが「私はそんなズルイことは決してしない」と主審のカルロス・ラモス氏に執拗なまでに食い下がります。ビデオが流されると、確かにコーチが身振り手振りでセレナにメッセージを伝えているように見えました。解説の伊達さんは「前後に揺さぶれ」という指示にも映ると指摘。この時点でセレナが著しく感情を害したことは確かですが、サラッと気持ちを切り替えて試合を続行すれば何事もなかったように思います。しかし、セレナの怒りは収まりませんでした。コートに叩きつけられたラケットは無残にひん曲がります。この行為でポイント・ペナルティを喰らったセレナはさらに激昂、主審を「嘘つきの盗人」呼ばわりして謝罪を要求、とうとうゲーム・ペナルティを科されてしまいます。客観的に見て、セレナの抗議は度を越していました。第2セットのスコアは5-3に。会場は騒然となって、大坂なおみ選手も戸惑いを隠せません。彼女は背を向けていて何が起きていたのか分からなかったと試合後で振り返りますが、会場は完全にセレナの味方、ブーイングはあっという間に増幅していきます。セレナが試合をボイコットするのではと俄かに心配になりましたが、なんとかプレイは再開。セレナも次第に落ち着きを取り戻していきますが、それ以上に冷静沈着だったのはチャレンジャー大坂の方。第2セットで1ブレイク許したものの、すぐにブレイクバック、1ブレイクアップと忽ち挽回してしまいます。終わってみれば、大坂まゆみ選手の鮮やかななストレート勝ち。弱冠20歳が日本人男女通じて初となるグランドスラム覇者となりました。試合終了直後にはガッツポーズも満面の笑みもなく、コートサイドへ向かう途中で、涙を隠そうとサンバイザーの鍔を目深にする仕草が実に印象的でした。

表彰式になると、セレナが会場のブーイングを押しとどめ、ようやく新女王を讃えるセレモニーらしく会場の雰囲気が穏やかになります。大坂はインタビュアーの質問には答えず、「(会場の)みんなが彼女を応援しているのは知っている。こんな終わり方でごめんなさい。ただ、試合を見てくれてありがとう」と意外な言葉を弱々しく口にしました。偉大な女王セレナへのレスペクトを込めた大坂のメッセージに、忽ち、観客は静まり返り固まってしまったように見えました。会場の空気は一変、セリナに感情移入しブーイングを鳴らした多くの観客が我を取り戻した瞬間です。挑戦者大坂なおみこそ、2018年の全米OP勝者にふさわしいと誰もが心から納得した瞬間でもありました。

些か後味の悪い試合でしたが、大坂なおみの急激な進化と試合巧者ぶりは手放しの賞賛に値します。歴史的快挙の陰に結成してまだ日の浅いチームナオミの存在がありました。昨年11月に就任したばかりのイケメンコーチ、サーシャ・バヒン(33)は今回の決勝の相手セレナのヒッティングパートナーを長年務めた方で、その手腕がGS初制覇の原動力だったのでしょう。小さい頃からまゆみさんにテニスの手ほどきをしたお父さんも、新任コーチが選手目線で指導する点を高く評価しているのだそうです。S&Cコーチのシラーもセレナの下でサポートしていた経験があるそうです。女王育成レシピを知り尽くしたチームナオミがわずか一年足らずで偉大な成果を出したというわけです。2013年9月の東レパンパシ予選で敗退した大坂のずば抜けたポテンシャルを見抜いて、強化に走った協会代表コーチ吉川真司さんの慧眼も忘れてはいけません。

シーズンも終盤を迎えましたが、錦織圭選手も復調し、大坂なおみ選手は別次元へと進化。全米制覇に勢いを得た彼女の破竹の快進撃と錦織選手のGS制覇にますます期待が膨らみます。