特別展「縄文」を堪能する

7/31から縄文時代の国宝6点すべてがトーハクに集結、8月上旬、満を持して特別展「縄文」へ。「歴史秘話ヒストリア」と「日曜美術館」もしっかりと視聴した上で臨んだ特別展の第一印象は、ホンモノの迫力が桁外れだったこと。とりわけ、TVの映像や写真では表現し切れない国宝6点の質感や細部にまで行き届いた造形美に圧倒されました。焼成された土の色の変化やグラデーションは、現代の陶工が拵えたレプリカの及ぶところではありません。



深紅の背景色に包まれた展示室には、一点一点が好ましい距離感とゆとりを以てディスプレイされています。一万年続いたという縄文時代ですから、縄文時代土偶や火焔型土器をひと括りにするのではなく、出土した地域や時代背景に配慮して一点一点の存在感を際立たせようという試みだったのでしょう。なかでも、惹かれたのは逆三角形の仮面を被った愛称「仮面の女神」(写真右)、どっしりとした両脚と胴体に刻まれた渦巻き模様が実に印象的です。安定したフォルムから放たれるオーラは、恰も未来から届いた贈り物。全体像は宇宙人を彷彿とさせます。「縄文のビーナス」と共に「仮面の女神」を所蔵する茅野市尖石縄文考古館のHPによると、内部は空洞で足の裏には首と同様に孔が空いているそうです。中空土偶の造形美とその作陶技術に脱帽です。


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縄文国宝第1号は「縄文のビーナス」。国宝指定は1995年、つい最近のことなのです。学術的価値だけではなく造形美が我が国で評価されるようになったきっかけは、米やベルギーで開催された海外の展覧会で「日本にはピカソが何人いるのだ?」と絶賛されたからでした。先史時代の偉大な造形美に無頓着だったのは他ならぬ日本人だったわけです。その点で、早くから「日本を代表する造形だ」と縄文文化の価値に注目した岡本太郎の審美眼は超一流でした。2年前、東京ステーションギャラリーで開催された川端康成コレクション展で見たハート形の土偶をふと思い出しました。川端康成も自らの眼で縄文文化の真価を見抜いていたのでしょう。柳宗悦が「日本民藝館の所蔵品すべてと交換してもいい」と言わしめた「岩偶」も会場の最後尾に陳列されていました。彼らは理屈抜きで縄文文化の偉大さを見究める眼を持っていたわけです。会場に陳列されたアジア全域や欧州の土器と比較すると、縄文文化の傑出した価値が実感できます。

くだんの「仮面の女神」を凝視していると、命の生成を担う婦女子の逞しさやエネルギーが直に伝わってきます。死者の再生と新たな命の誕生という輪廻転生の息吹に触れた素晴らしい展覧会でした。『JOMON 1万年の美の鼓動』と題した図録(税込240円)には、便利な年表や地図が挟み込まれ、図版がことのほか美しい出来栄えです。マストバイですね。会期は9/2(日)まで。