老いる沿線風景〜多摩田園都市は超高齢化社会の縮図〜

7月3日付け日経朝刊の「老い多摩田園都市」と題する記事に目が留まりました。沿線住人ではありませんが、友人知己が結構な数田園都市線沿線に住んでいるので、他人事ではありません。東急の正式名称は「東京急行電鉄」、今年9月で創業100周年を迎えるのだそうです。


東京近郊では、多摩ニュータウン高島平団地の住民高齢化に伴う街の衰退が指摘されてきましたが、くだんの記事は田園都市線沿線の駅から遠い不動産が売れなくなったと指摘しています。田園都市線(溝の口長津田)が開業したのは1966年、東急が推進した沿線都市計画は、駅の周辺に集合住宅を配置し、ドーナツ状に拡がる周辺地域の比較的まとまった土地に戸建住宅を建設するというものでした。80年代一世を風靡した「金妻」の舞台は美しが丘(地誌的裏付けのないこうした地名はどうも苦手です)でした。今や、田園都市線は62万人の人口を擁する沿線都市群を抱えているわけです。

田園都市線の開業から50年以上も経てば、当然、住民も住まいも老いていくわけです。子供は巣立ち、老夫婦が無駄に広い邸宅を持て余すようになります。ところが、売却して都心に近い場所へ引っ越そうとしても希望価格で売れない、そんな不動産マーケット事情を記事は詳らかにしています。売れない大きな理由は、駅から遠いだけではなく、田園都市線沿線一帯は坂が多いからです。若いときならいざ知らず、足腰弱った老人に急坂はあり得ません。車の運転もおぼつかなくなれば、移動手段はバスに頼るしかありません。

都心では、複数路線の駅近、徒歩5分以内のマンションが好まれます。田園都市線沿線のもうひとつのネックは、ほかの路線を使って都心へアクセスできないことです。朝夕の田園都市線の通勤地獄が解消されない限り、今後、若い世代を引きつけることは難しいエリアになるでしょう。渋谷駅のホーム増設と田園都市線複々線化という難題に取り組まないかぎり、明るい未来は描けないのかも知れません。

ちなみに、我が家の場合、目的地に応じて、中央線、総武線地下鉄東西線京王井の頭線を使い分けます。こうした交通機関へのアクセシビリティは、自宅不動産の流動性を担保する最重要ファクターなのです。山手線の外側では、比較的恵まれた交通アクセスではないでしょうか。マンション住まいにせよ戸建住まいにせよ、これから想定される大規模な人口減少(2065年の日本の口は8808万人と推定されています)に備え、自分の住む街に衰退の兆しがないかどうか、注視していく必要があります。区部であれ市町村であれ、人口が年々著しく減少する街に将来性はありません。税収が減り、やがて直面する行政サービスの質の低下は、益々当該地域の人口流出を加速させていくでしょう。シャッター通りは決して地方だけの話ではありません。田園都市線沿線で見られる衰退現象は、今後、山手線の外側を中心に加速度的に拡散していくことでしょう。