『火垂るの墓』の高畑勲監督の死をを悼んで


日本のアニメーション界を長らく牽引してきたスタジオジブリ高畑勲監督が享年82歳で永眠されました。巨星墜つとは高畑監督のような方がこの世を去ることを云うのでしょう。

高畑監督の代表作『火垂るの墓』を初めて観たときの衝撃は言葉にならないくらい強烈でした。戦争がもたらす悲劇を題材にした映画は邦画のみならず洋画も含め枚挙にいとまがありませんが、リアリティにおいて『火垂るの墓』を超える作品を知りません。アニメーションで実写のリアリズムを超越してしまうとは恐るべき手腕です。

Wikiによれば、原作者野坂昭如氏自身が驚愕したそうです。野坂氏は映画公開前に発表した「アニメ恐るべし」のなかでその驚きをこう綴っています。

<いわゆるアニメの手法で飢えた子供の表情を描き得るものかと、危惧していたのだが、これはまったくぼくの無知のしるし、スケッチをみて、本当におどろいた。(中略)ぼくの舌ったらずな説明を、描き手、監督の想像力が正しく補って、ただ呆然とするばかりであった>

アニメーションの緻密さに驚愕した野坂氏は、場所も含めたその描写によって自分が「眼をそむけつづけてきた」過去と「今は、少し正直に向き合っている」と記しています。

コンピューターグラフィックの存在しない80年代後半に、徹底した観察眼によって昭和20年当時を精緻に再現したことに観客は先ず驚かされ、次に野坂氏の描いた戦時下の子供たちの過酷な暮らを豊かな抒情性で包み込んだ監督の叡智に驚嘆させられます。こうしてリアリズムと抒情性が一体となったとき、アニメーションが実写を超える迫力を備え、観る者を震撼させるのです。この映画を繰り返し見るのが辛いと誰しも思うのは無理もありません。毎年、終戦記念日が近づくとTV放映されることを知りながら、自分も二回しか観ることが出来ませんでした。

2016年に公開され大ヒットした『この世界の片隅に』の片渕須直監督が道しるべにしたのも『火垂るの墓』でした。才能豊かな後進に影響力を及ぼしたのも高畑監督のもうひとつの功績です。

平知盛は「見るべきほどのことは見つ」と海中に身を投げました。4月13日に『火垂るの墓』が追悼放映されるそうです(近年、視聴率低下のせいもあって残念なことに毎年放映されることがなくなりました)。飢えを知らない戦後世代はひたすら飽食を享受するだけで、「見るべきほどのこと」を未だ見ずに生きていることを思い知るべきです。両眼を見開いて今一度この映画に向き合うべきだと、自分自身に言い聞かせたところです。

未来を生きる世代にも、不朽の名作『火垂るの墓』を末永く受け継いで欲しいと思っています。末尾になりましたが、衷心より高畑勲監督のご冥福をお祈り致します。