雨天の燧ケ岳登山〜ふたつのポイント・オブ・ノーリターン〜

9月19日、早朝4時に登山仲間Iさんと杉並区今川で合流し、尾瀬御池ロッジに向かいました。めざすは東北以北最高峰の燧ケ岳(2356m)、至仏山とともに尾瀬を代表する百名山でもあります。数日前から天気がすぐれないので、決行か中止かずいぶん迷いましたが、当日午前中は曇り空の予報でしたので、車で東京を出発。通常、4時間かかるところ20分早く現地に到着し、空模様を確かめた上で初日登山敢行と決めました。過去、富士山7合目あたりまで小雨のなか登山したことはありますが、全行程雨覚悟は初めてかも知れません。

今回のように荒天が予想される場合でも、中止を強く躊躇う気持ちが支配的でした。理由はいくつかあります。1)会社に休暇願いを提出済み(同行者の事情)、2)宿は手配済み(キャンセルフリーでしたがハイシーズンの予約は困難)、3)パッキング済み(当たり前)、4)空模様は現地で判断したい(予報が改善することを暗に期待)といった事情が逸る気持ちを決行へと誘います。今回、東京を出発した時点で、半ば、燧ケ岳登山は既成事実になっていたのです。元の状態に戻れないとされる時点を”point of no return”と云いますが、現地で曇り空を確認した時点で気持ちは決行、引き返せなくなっていたようです。


登山を開始して、順調に広沢田代、熊沢田代と傾斜湿原を抜け、燧ケ岳五峰のひとつ、俎嵓(まないたぐら)(2346m)に到達しました。途中、小雨に降られる程度で心配したガスも視界を著しく遮るほどではなかったのですが、俎嵓から周囲は全く見通せません。我々以外に、若者がひとり岩場で休憩しているだけでした。雨天の登山者がこれほど激減するとは驚きでした。15分足らずで行けるはずの最高峰柴安嵓(しばやすぐら)もまったく見えません。祠と二等三角点のある山頂を容赦なく強風が襲います。風速は15〜16mぐらいだったでしょうか。強風に身を晒していると体温をどんどん奪われていきます。長湯は禁物とばかり、めざすは柴安嵓!登山道を急ぐことに。ところが10分ほど下っても一向に上り道に転じません。曇った眼鏡越しに見えたのは9合目というステップの表示、ここでようやく長英新道を下っていることに気づきました。Iさんに引き返すようお願いして岩場を俎嵓まで逆戻り。ここで、徐に地図を拡げてコンパスで方位を確認した上で、岩の赤い矢印とともに「ハラ(尾瀬ヶ原の略)」書かれた方角へと方向転換し、なんとか柴安嵓にたどり着けました。御池ピストン組は「ヌマ(尾瀬沼の略)」と書かれた矢印に決して従ってはなりません。ミニ迷走時間も含めて、半時ほどがロスタイムになった計算です。

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俎嵓から柴安嵓までのコースタイムを意識して、かろうじて引き返せましたが、どんどん下っていったとすると、宿泊先の御池ロッジに日没までに戻ることは出来なかったでしょう。長英新道の9合目或いは8合目あたりが、ふたつ目の”point of no return”だったに違いありません。迷走から解放されたせいでしょうか、山頂ハイマツの蔭で飲んだカフェオレが最高でした。尾瀬沼こそ見えませんでしたが、尾瀬ヶ原は雲間から捉えることができました。ようやく冷え切った身体も生気を取り戻し、本格的に降り出した雨のなか、下山を急ぎ、16:30には元来た登山口に戻ることができました。

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出発地や現地での気象条件の判断、視界が遮られたときの登山道の確認など、雨天だからこその貴重な経験が積めたことは確かです。「中止の決断」が正しかったのかも知れないと思いつつ、雨天の燧ケ岳登頂から天候急変時の対処方法を学んだ気がします。