古谷和也さんの信楽大壺


6月中旬に古谷和也さんの個展で買い求めた信楽の大壺がとうとう我が家にやってきました。径49センチ、高さが52センチもありますから、見たこともないような大きな桐箱に格納されて届きました。クッション材で何重にもプロテクトされていましたから、梱包はさぞや手間だったに違いありません。

梱包を解いて現れた大壺の存在感は半端ではありませんでした。左肩から中央部に向かって、たっぷりとビロード釉がかかり、底部に向かって濃緑の流線となって幾重にも分岐していきます。斜めにして焼成されたことがひと目で分かります。その先に<トンボの眼>と呼ばれる「珠だれ」が見事に結実しています。窯焚きを繰り返してもなかなか思うようにできないという代物です。


古谷さん曰く、ここ数年でも会心の出来栄えなのだそうです。思ったとおりに出来るのは50%未満、そんな厳しい作陶の世界でこの大壺(写真左は個展パンフより拝借しました)は珍しく狙い通りの仕上がりになったようです。正面から見ると、左肩から広範囲にブロード釉が覆い、右肩からは緋色の土肌が拡がり、色彩のコントラストが絶妙です。均整のとれた確かな造形も魅力のひとつです。貝目がアクセントになって、底部にはヌケが見え、信楽焼の魅力が凝縮されたような作品です。

聞けば、窯詰めに5日、焼成に4昼夜を重ね、約12日はかかるという窯炊き。窯の神様次第なのかと思いきや、80%は計算して狙いどおりに出来てこそ歓びもひとしおなのだそうです。今回手に入らなかった<トンボの眼>がある蹲は、次回に期待するとして、しばらく大壺を眺めて悦に入ることにします。