国立新美術館開館10周年の企画展は「ジャコメッティ展」!〜群像作品がイチオシです〜


先月末金曜日の夕刻、国立新美術館で開催中の「ジャコメッティ展」(〜9/4まで)を訪れました。毎週金曜日と土曜日は20時まで開館していますから、混雑を避ける意味でも夕方から足を運ぶのが得策です。この日は、来館者が思ったより少なくてじっくり鑑賞することができました。

日本では11年ぶりの回顧展、個人的には1983年の大規模な巡回展以来のジャコメッティ作品群との再会ということになります。10周年を迎えた国立新美術館の記念すべき企画展において、現代彫刻家のなかで一番お気に入りのアルベルト・ジャコメッティ(1901〜1966)を招いてくれたことに心から感謝しています。

会期が始まる前から心待ちしていた展覧会には、彫刻やリトグラフを中心に132点が集結、20世紀を代表する彫刻家のひとりジャコメッティの全貌を知ることができます。ジャコメッティといえば、針金のように細長い立像、なぜ人はこうした特異な造形に惹かれるのでしょうか。見る者は、作品を前にして、人間の本質を突きつけられたような新鮮な驚きを感じると共に自身の深奥にあるものに共感を覚えるからではないでしょうか。<見えるものを見えるがままに描く>というジャコメッティの揺るぎのないポリシーは、カメラアイで対象を単に捉えて写し取るというものではありません。作者の哲学的思考のフィルターにかかると着衣や肉体だけではなく存在に不必要な虚飾までもが一切剥ぎとられてしまいます。その結果、残されたものだけが人間の本質だとジャコメッティは考えたのです。

ジャコメッティの作品と共に忘れてならないのはモデルの存在です。納得ゆくまでモデルを凝視しないと気が済まないジャコメッティのために、長時間、ポーズをとらされるモデルは必然的に家族や親しい友人に限られてきます。妻アネットと弟ディエゴ(胸像は傑作です)の献身的な協力に加え、法政大学で教鞭を執った哲学者矢内原伊作の存在もジャコメッティに大きな影響を与えたと云われています。留学先パリからの帰国期限が迫るなか、帰国を延期してまでモデルを務めた矢内原先生は、帰国後も夏休みを利用して4度もパリに渡ってモデルを続けます。哲学者の思索とジャコメッティの瞑想が交錯するようなアトリエ風景を想像するだけでわくわくしてきます。

展示作品のなかで最も印象に残ったのは群像作品、なかでも「3人の男のグループ」でした。3人の男がそれぞれ別の方向からやってきてすれ違う瞬間を捉えた作品です。まるで渋谷のスクランブル交差点を行き交う人の群れのように、見知らぬ者同士がつかず離れずの距離感を保ちながら輻輳します。エトランジェが行き交うパリの街角からイメージしたのでしょうか、都会の喧騒とは対照的な静けさと孤独を感じてしまいます。

会場最後の展示は、ジャコメッティチェース・マンハッタン銀行から依頼を受けて、ニューヨークの広場のために制作された3点の大作、《歩く男Ⅰ》《女性立像Ⅱ》《大きな頭部》でした。ここだけは写真撮影NGではありませんので、2カットご紹介しておきます。

*(おまけ)図録の出来栄えがいいのでお勧めです!