カイツブリの浮巣〜中西悟堂を夢中にさせたカイツブリ〜

週末、井の頭池を散策している途中で浮巣を温めているカイツブリを見つけました。井の頭池とひょうたん池の境に架かるひょうたん橋から大型望遠レンズを構えている人がいてすぐに気がつきました。以前、ボート乗り場の近くで見かけたことがありますが、今回は視界が開けた場所だったので、早速、愛機EOS70Dで近影(写真下)を捉えました。

カイツブリは浮巣を作ることで古来から知られています。万葉集にも歌われています。俳句づいたついでに松尾芭蕉カイツブリを詠んだ句をご紹介しておきます。

<五月雨に鳰の浮巣を見にゆかん>(「笈の小文」より)

<鳰>はカイツブリの古名で「にお」と読みます。鳥が(水に)入る(潜る)と思えば合点のいく命名です。潜水上手なので、日本各地でいろいろ呼び名があるようですが、三鷹武蔵野あたりでは「もぐっちょ」なんて呼ばれています。カイツブリは、水草や葦をかき集めてきて編み上げるように浮巣を拵えます。形状は逆円錐形です。日本での繁殖期は4〜7月だそうですから、今は抱卵の真っ最中ということになります。カイツブリは雌雄交代で抱卵にあたり、早ければ1カ月も経たないうちに孵化します。孵ったひな鳥はすぐに泳ぐことができる上、数秒潜水することもできるといいます。ひな鳥が疲れてくると親鳥がしばらく背中にのせて泳ぐこともあるようなので、その瞬間を一眼レフで捉えてみたいものです。

カイツブリといえば、つい最近読んだばかりの『中西悟堂 フクロウと雷』に「カイツブリの観察」という面白い随草がありました。日本野鳥の会創設者、中西悟堂を夢中にさせたのがカイツブリの巣作りや抱卵の様子でした。親鳥に悟られないように唐草模様の大きな布を頭からかぶり、目のところに小穴を開けて草陰からカイツブリ夫婦を観察するという挙に出た中西さん、日がな一日、住まいの近くにある善福寺池で直立不動でカイツブリの様子を見つめます。まるで案山子です。ときには頬かむりを解いてカイツブリを驚かせ、行動を観察します。そんな孤軍奮闘の甲斐あって、カイツブリの生態(以下、同書から引用)が次第に明らかになっていきます。

  1. 巣づくりのまじめさ、勤勉さ、暁から日暮まで片時のゆるみもなく休息もない誠実さ。
  2. 抱卵中の卵を守るにあたって(上述したような)深い知恵をもつこと。
  3. 雛になってからの庇護と訓練。

中西悟堂は、カイツブリによって鳥の世界へ二度目の開眼をしたのだそうです。鳥への入信のきっかけを作ったカイツブリの生態は、確かに「自然の驚異」に満ちています。極点や絶嶺を目指さなくとも「自然の驚異」は身近に存在することを教わりました。