京都縦貫道で行く海の京都(3)〜伊根の舟屋篇〜

元伊勢籠神社を通り過ぎて国道178号線を20分余り北上すると、めざす伊根浦の舟屋群に到着です。港町全域310.2haが国の「重要伝統的建造物群保存地区」に指定されています。かかる指定地区は京都市内で4ヶ所、府内全域でも7ヶ所しかない周辺環境と一体化した特に価値ある風致地区なのです。


一度は訪れたいと思っていた伊根の舟屋群、京都縦貫道全線開通のお蔭で願いが叶いました。350世帯230軒もあるという舟屋が写真のように伊根湾の海際にすきまなく立ち並び、櫛比した妻入屋根が延長5キロにわたって美しい景観を形作っています。将棋の駒形に例えらえることもあるそうです。1階部分は舟の格納庫のほかに漁具の収納場所として使われており、2階は住居として使用されているそうです。

車で湾岸を走ると対向車とすれ違うのに困難を伴います。山側には狭い道を挟んで母屋が立ち並び、一部を除いて、車窓から肝心の海を臨むことが出来ません。舟屋の風情溢れる景色を眺めるには、遊覧船か海上タクシーと呼ばれる小型船に乗船することです。駐車場さえ見当たらないので、徐行しながら進むしかありません。ようやく「亀島丸」という海上タクシーの看板を見つけました。船長の奥さんが母屋のご主人を呼び出してくれて、めでたく、乗船が叶いました。2名からの受付けで料金は大人1000円でした。


ライフジャケットを身に着け、船首に陣取ったら出航です。山田船長が舵を取りながらマイクを通して丁寧に湾内の説明をして下さいます。誰しも、時化のとき海の際まで舟屋がせり出していて大丈夫なのだろうかと真っ先に思うはずです。船長曰く、伊根湾は穏やかな海で潮の干満差がわずか50センチ、湾の入口を塞ぐように青島という無人島が波を二分し防波堤の役割を果たしているからなのだそうです。


明治13年から昭和25年まで断続的に沸いたブリ景気で舟屋が今のような二階建てに新築・改築されていったようです。海から見える芝居小屋(右写真)の大きさからも往時を偲ぶことができます。まさに豊穣の海がもたらした奇跡の景観です。太陽光線を浴びて紺碧に輝く海をゆっくりと進む船からは、江戸時代の舟屋や町内唯一の造り酒屋向井酒造が臨めます。


30分の周遊が終わりに近づく頃、餌付けされているのでしょうか、船の周りに無数のかもめが集まってきました。潮風に逆らいながら器用に指先から餌をついばんでいきます。魚屋が存在しない伊根町では、舟屋の端で調理された魚のアラは再び海に戻されます。伊根ぶりや丹後ぐじをはじめ、四季を通じて旬の魚を楽しめるのも漁港伊根町のもうひとつの魅力かも知れません。