冬の京都〜大原篇〜

ハンドルを握って道々降雪の心配をしながら、冬の京都を訪れました。どんよりと雲が垂れ込め、ときおり薄日が差し込むようなお天気でしたが、滞在中は最高気温が12度前後まで上がり、寒さは殆ど気になりませんでした。


最終日はホテルのチェックアウトを済ませ、7キロほど離れた大原を訪ねることにしました。お目当ては「志ば久」のお漬物。看板商品の「赤志ば」の赤紫蘇は自家栽培、その他のお野菜も自家農園で育てられ、合成着色料や保存料が一切使われていないところが気にいっています。接客にあたって下さったのは実はこちらの社長さん、いつ訪れても丁寧に対応して下さります。一番好きなお漬物は、しそ巻らっきょうです。三千院へと続く参道はハイシーズンとは対照的に静まりかえっていました。


三千院周辺さえ人影はまばらで、閑古鳥の鳴いている門前茶屋の店員の呼び込みの声だけがこだまします。お蔭でまだお正月飾りの残る三門だけをカメラに収めることができました。京都の松の内は1月15日まで、三千院左義長小正月の1月15日に行われます。この時期に京都を訪ねるのは初めてだったので、歳神様がやってくる際の目印となる門松が残る新年の佇まいは実に新鮮でした。その上、三が日を過ぎれば寺社にも静けさが戻りますので、松の内後半のこの時期、京都を訪れるのは存外お値打ちなのだと知りました。



これまで大原陵から眺めるだけだった実光院の「不断桜」を愛でて参りました。鄙びた佇まいの実光院のお庭のシンボル的存在の「不断桜」は、初秋から春にかけて少しずつ花を咲かせる珍しい品種です。紅葉の時期に訪ねると、桜と紅葉が同時に見られるというわけです。三門の左手の貼り紙に<不断桜咲いています>とありました。建物正面の銅鑼で受付を呼んで入寺し、ひとわたりお庭を鑑賞して建物に戻ると、雲水とおぼしき青年が現れました。聞けば、比叡山で2年のお勤めを経て実光院にいらしたご住職さんでした。

客殿の壁際に「編鐘」(写真下)を見つけたので、参拝客がほかにいないのをいいことに、若いご住職さんに声明と演奏をお願いしたところ、なんとご快諾下さるではありませんか。中国から伝わったという「編鐘」にぶらさがる鐘の数にはいくつかバリエーションがあるようですが、こちらの「編鐘」には16個の鐘がついていました。清々しい声明が清閑とした客殿を包み込み、心洗われる思いでした。

人気のない冬の大原だからこそ味わえる貴重な経験でした。