封切り直前映画「海賊とよばれた男」で気になること

2013年に本屋大賞を受賞した『海賊とよばれた男』(2012年7月刊行)が映画化され、明日から劇場公開されます。主人公の国岡鐵造のモデルは、立志伝中の人物として知られる出光興産の創業者出光佐三氏です。原作本は上下巻で748頁にも及ぶ長編だけに、わずか2時間25分の上映時間で波乱万丈の生涯にどこまで迫れるのかが気になるところです。原作が本屋大賞を受賞した際、次点だった横山秀夫原作の『64』が映画化されたときのように、前編・後編の二本立てにしても良かったのではと観る前から時間不足を憂えているような次第です。

佐三氏が終戦を迎えたのは60歳のときでした。終戦の年の1月27日、銀座もアメリカ軍の空襲に遇って焦土と化すわけですが、出光本社は奇蹟的に難を逃れます。大多数の国民が失意のどん底にあった1945年8月15日、佐三氏はいかなる思いを抱いてその日を迎えたのでしょうか。自分が映画監督であれば、間違いなく、終戦の日の佐三氏が見つめた焼け跡から映画をスタートさせるでしょう。山崎貴監督が映画の冒頭にどんなシーンを持ってくるのか、興味津々であります。

外地に派遣された従業員も含め、ひとりとして馘首しないと決めた佐三氏(当時貴族院議員)ですが、GHQから軍部に協力したとして公職追放されかけます。太平洋戦争中、軍部の言いなりだった体制派の人間の多くが終戦を境にGHQに競うようにこびへつらうようになります。その変わり身の早さには呆れるばかりですが、些かも信念を曲げない佐三氏は、荒廃した日本の将来を慮って、商工省鉱山局石油課長宛に石油政策に関する意見具申を行います。しかし、戦前、石油の流通と販売を統制した石統(正式名称は石油配給統制会社)がまたしても佐三氏の前に立ちはだかります。

原油の供給を絶たれ、勝ち目のない戦に突入した大日本帝国こそ崩壊したものの、軍人も含めて旧体制派の人々が既得権益を守ろうと、出直しを誓う出光佐三氏の行く手を阻もうとします。明治・大正・昭和の三代を生き抜いた傑物佐三氏を、主演の岡田准一がどう演じるのか、封切の明日が楽しみでなりません。