出光美術館50周年記念<大仙厓展>に感極まる

会期最終日の13日、出光美術館で開催中の<大仙厓展>を鑑賞してきました。百田尚樹さんの『海賊とよばれた男』が第10回本屋大賞(2013年)を受賞して、出光興産創業者出光佐三氏の生涯が広く世に知られるようになりましたが、彼には実業家のほかに美術品蒐集家というもうひとつの顔があります。

出光美術館が所蔵する古今東西の貴重なコレクションのなかでも仙厓のそれは群を抜いています。国内最大級の仙厓コレクションこそ、同美術館の50周年記念展にふさわしいものはありません。19歳の学生だったとき、仙厓の『指月布袋画賛』を父親に頼んで買ってもらったといいますから、出光佐三氏は若い頃から目利きだったことになります。

仙厓義梵(せんがいぎぼん)は美濃国に生まれ、行脚を重ね40歳のときに栄西が建立した日本最初の禅寺聖福寺(博多)で23代住持に就きます。禅画というと禅機図や祖師図のような堅苦しいイメージを思い浮かべがちですが、仙厓の禅画の多くが市井の人々に向けて描かれたせいか、大胆に余白を残したシンプルな構図の作品が目立ちます。座禅蛙や蕪をじっと見ていると自然に笑みが零れてきます。禅の教えをユーモア溢れる軽妙洒脱な画で説こうとしたのでしょうか。晩年、仙厓の禅画を求めて隠居所まで大勢の人が押しかけたのも道理です。幾度も絶筆を試みながら果たせなかった仙厓の人柄が画から滲み出ているようです。


『自画像画賛』に心に響いた作品でした。禅僧の後姿の左側には<仙厓そちらむひてなにしやる>という言葉が添えてあります。達磨大師少林寺で壁に向かって9年間座禅して悟りを得たという故事「面壁九年」に因んだ禅画だということは分かります・・・。でも、こんな風に描かれると肩の力が抜けて、座禅に取り組めそうな気がしてきます。伸びやかな線描と賛のバランスも絶妙です。「仙厓無法」と呼ばれる既成の画法に囚われないスタイルを貫いた仙厓らしい作品です。

鈴木大拙が”The Universe"と英文解題したという『○△□』には賛がありません。見る者が自由な発想で画を読み解けばいいように思います。お隣の『三徳宝図』にも神道儒教・仏教の系譜と共に○△□が書き込まれているので今も謎解きに余念がないようです。


2時間あまり至福のときを過ごしてロビーに出ると、皇居の紅葉が目に飛び込んできました。何とか間に合った大仙厓展の余韻に浸りながら眺める秋天の皇居周辺の景観もまた最高でした。