「ハドソン川の奇跡」の検証(ネタバレなし)

2009年1月15日にラガーディア空港を飛び立ったばかりのUSエアウェイズ1549便がバードストライクに遇ってハドソン川に緊急着水した航空機事故を基に制作されたのが「ハドソン川の奇跡」です。乗客・乗員155人全員が無事生還できたことから、当時、マスメディアが”Miracle on the Hudson”と手放しで称賛していたことはまだ記憶に新しいところです。機長と副操縦士が時の英雄になったことは想像に難くありません。


世界を驚嘆させたこの奇跡の生還劇に衝撃的な後日談があったとは知りませんでした。映画のポスターに<155人の命を救い、容疑者になった男>とありますから、事故の顛末はパイロットが英雄ではなかったことを示唆しています。ドラマの舞台は一転、真冬のハドソン川から国家運輸安全委員会(NTSB)へと移っていきます。その後のスリリングな展開は、是非映画館で鑑賞頂ければと思います。エンドロールがすべてを語ってくれます。

現実に起きた出来事を題材に映画が製作されると、必ずと言っていいほど毀誉褒貶が相半ばします。個人的にはがっかりした経験の方が多いかも知れません。過剰な演出や脚色が真実を歪めてしまうからです。その点、わずか96分間の映画のために切り取られた事実の断片は拍子抜けするほど普通でした。コックピットと管制塔の遣り取りはもとよりコックピット内部の機長・副操縦士間の短い会話も、危機的情況とは不釣り合いほど冷静そのものです。保安要員として持ち場を守るCAも例外ではありません。そのせいで、却って緊迫感がよく伝わってきました。不必要な脚色を一切排除して事実と真摯に向きあった映画が本作です。事故機にたまたま搭乗した日本人乗客の証言もそれを裏付けています。期待を裏切らない出来栄えの映画でした。

本編が終わりエンドロールに移ると、静かに”Flying Home”というジャズティストの曲が流れてきます。拍手を送りたいような気持を堪えて劇場を後にしました。本作にはチェズレイ・サレンバーガー機長自身の手記をまとめた原作が存在します。少し時を隔てて読んでみるつもりです。

機長、究極の決断 (静山社文庫)

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