エクスナレッジの『世界で最も美しい書店』を開いてみる

ここ数年、エクスナレッジという出版社が刊行する世界で一番美しい・・・と題したビジュアル本を本屋さんの店頭でよく見かけるようになりました。建築・インテリア分野の出版物を手掛ける「建築知識」という名の老舗出版社が、2000年に社名変更してエクスナレッジとなり、ビジュアル本を手掛けるようになったようです。

本書はやや大判でシンプルな白の装丁が特徴です。じっくり読むというより、美しい写真を楽しむ本と言っていいでしょう。今年2月に発売された『世界で一番美しい犬の図鑑』には80種の犬が登場しますし、本書でも20軒の書店が取り上げられています。一番とか最もとか銘打っている点に思わず突っ込みを入れたくなりますが、まあ我慢するとしましょう。

最近は出版不況のせいで個性ある書店が次々と姿を消しています。概ね古書店も苦境におかれています。映画You've Got Mailに登場した街角の小さな絵本専門店も大型書店の進出で廃業を余儀なくされ、『赤頭巾ちゃん気をつけて』に登場した旭屋書店もとうの昔に消えて跡地はファッションビルに様変わりです。チェーン展開のジュンク堂啓文堂は効率的に本を配置しているので確かに便利な存在です。しかし。愛着が湧くようなスペースではありませんし、便利さだけを追求するならネット注文に勝るものはありません。でも、そこから心ときめく物語は生まれません。


その点、本書に登場する書店は例外なく個性派です。ギリシャサントリーニ島北端の書店にはエーゲ海を臨むテラスが設えてあります。ロンドン郊外の人口8000人の小さな町には、オーナー夫婦が石造りの駅舎を改造して始めた書店があって地元の人々に人気のようです。本書に登場するロンドンのマリルボーン・ハイ・ストリートに軒を連ねるDAUNT BOOKS(左写真)は、ロンドン滞在中に必ず訪れたお気に入りの書店でした。NYのRizzoli Booksoreと店内の雰囲気がよく似ています。本をジャンル別ではなく地理的に分類しているのが特徴です。ウィリアムモリスのテキスタイルが貼られたこの書店の雰囲気を参考にして自分の書斎を拵えたほどです。木の温もりが感じられて腰掛けるスペースのあるような居心地のいい書店が理想です。都内ではカフェを併設した神田の東京堂書店が気に入っています。

日本の書店では唯一、代官山の蔦屋書店が登場しています。書店に足を運ぶのはスーツやネクタイを買うのと似て、内容だけではく本の手触りや装丁を確かめるためでもあります。携行に便利な文庫本や新書本ではない単行本探しは存外楽しいものです。国内外を問わず、旅先でも理想の本屋さんを探すのもそうした理由からなのです。

世界で最も美しい書店

世界で最も美しい書店