駒形前川本店の鰻重を食す

20代の邦銀支店勤務時代、日本一の養殖うなぎ生産量を誇る一色町(愛知県)がテリトリーだったので、昼時にはよく鰻重を食べに出かけました。今や、鰻重は高級品ですが、当時はお財布のことを気にした覚えはありません。うなぎは煙と香りで食わせるという言葉どおり、夏場は特に、店内に立ち込める香ばしい匂いに抗うことは出来ませんでした。決してうなぎ好きが昂じたわけではありませんが、うなぎの養殖池建設資金を融資したのも懐かしい思い出です。

今年の土用の丑の日はたまたま土曜日で隅田川花火大会も重なったため、浅草近辺のうなぎ屋さんはどこも大繁盛だったといいます。さすがに当日の鰻重は断念し、今年から祝日になった8月11日に創業200年の老舗駒形前川本店を訪れました。池波正太郎が贔屓にしたことでもつとに有名です。


2007年7月に新丸ビルに駒形前川が出店して以来、新丸ビル店には足繁く通ったものですが、本店で鰻重を頂くのはこれが初めて。予約せずに向かったので、時間をずらして14時過ぎに現地に到着。ほどなく駒形橋を臨む2階の窓際席に案内して頂けました。隅田川から東京スカイツリーを臨むロケーションと昔ながらの座卓はさすが老舗の佇まいだと感じました。


鰻重を注文して待つこと20分、鰻重と肝吸いが運ばれてきました。かなりお腹が空いていたので、あっという間のごちそうさまでした。タレが上品な醤油風味の味付けだったため、少々物足りない感じがしました。蒸し焼きのうなぎその物を賞味できるのはいいのですが、慣れ親しんだ甘めで濃い味のタレが好みなのでうっちゃられた格好です。重箱を開けたときに拡がる香りも殆どありませんでした。シラスウナギの乱獲で近年鰻重の値段はそれこそ鰻登り、注文した5184円の水菓子付き鰻重(中サイズ)では正直ボリューム不足でした。

うなぎは庶民の食べ物という基本線はやはり崩したくないもの。煙や香りが充満した店内で注文した鰻重が運ばれてくるのを待つ方が自分には合っているように思いました。高級食材と化したうなぎを供する老舗名店に期待すべくもないのかも知れませんが、やはり、昔のうなぎ屋が懐かしい!