71回目の「原爆の日」

夜明け前から献花に訪れる人が絶えない平和記念公園、今年で71回目となる「原爆の日」がやってきました。この日、原爆死没者慰霊碑に納められる名簿に記載されたのは30万3195名。NHKの式典中継を見ながら、改めて、「核なき世界」の実現のために、我々日本人は唯一の被爆国民として「核の恐怖」を連綿と世界に伝えていかなければならないと思いました。世界には今なお1万5000以上の核兵器が存在します、東西冷戦時代にはその4倍を優に超える7万近い核兵器が存在したといいますから驚きを禁じえません。まだ広島や長崎を訪れたことのない核保有国首脳に、被爆地の姿を実際に見てもらうのが核廃絶のために間違いなく必要な営みでしょう。

3歳のときに母親と姉を亡くした被爆者飯田国彦(74歳)さんがNHKのインタビューに次のように答えていたのが印象的でした。若い世代に核の恐ろしさを伝えるために惨劇の実態を伝えると気分を害する子供たちがいたりして、次第に被爆死の現実に触れないようにするようになったという飯田さん。今年5月27日、オバマ大統領が被爆地広島を訪れた際のスピーチを聞いて、考えを改めたのだそうです。

その一節を引用しておきます。


We listen to a silent cry. We remember all the innocents killed across the arc of that terrible war, and the wars that came before, and the wars that would follow. Mere words cannot give voice to such suffering. But we have a shared responsibility to look directly into the eye of history and ask what we must do differently to curb such suffering again.

Some day the voices of the Hibakusha will no longer be with us to bear witness. But the memory of the morning of August 6, 1945 must never fade. That memory allows us to fight complacency. It fuels our moral imagination, it allows us to change.

被爆者の平均年齢は80.86歳(2016/3)、式典で松井広島市長が述べたように、またオバマ大統領がスピーチで触れたように、遠くない将来、飯田さんのように証言をしてくれる被爆者の肉声を聞くことが出来なくなってしまいます。貴重な証言を聞いて、被爆の実相を今一度脳裏に刻み込むことが何より大切だと思い知らされます。

戦後生まれの我々は、海の向こうで頻発する戦争や大規模なテロとは無縁の平和な暮らしを享受してきました。よほど想像力を逞しくしないかぎり、平和ボケの日本人は戦争の惨禍を知らずに死を迎え、後世に先の戦争の愚を伝えることを忘れてしまいがちです。そのために、被爆者のみならず戦場体験者の記憶の継承は欠かせません。

オバマ大統領のスピーチに具体的な核軍縮の提案がなかったことを理由に失望感を露わにした有識者も少なくなかったようですが、自分はオバマ大統領の格調高いスピーチに強く胸を打たれました。世界中の子供たちが等しく平和に暮らせるような未来、それが我々の選択しうる唯一の未来だと結んだオバマ大統領のメッセージを末永く後世に伝えていこうではありませんか。