銀座小十で初夏の特別ランチコースを愉しむ

2013年12月に「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されました。こうして、海外から「和食」の評価が年々高まる一方で、日本の食卓では「和食」離れが急速に進んでいるように感じます。我が家の食生活を振り返っても、イタ飯を中心に西洋料理への傾斜が著しいと云えます。核家族ならまだしも単身世帯が増えるにつれ、手間ひまのかかる「和食」が敬遠されるのは致し方ないのかも知れません。

でも、そんな日常にこそいい刺戟が必要というわけで、昨日は銀座小十で家内とランチをすることに。お店には個室もありますが、断然8席しかないカウンター席がお薦めです。店主奥田透さんの華麗な包丁さばきと盛りつけをまじかで見ることができるからです。

初夏は生命が躍動する季節、昨日は高級食材を惜しげもなく使った見事なランチコースでした。お椀は牡丹鱧とじゅんさい、焼き物は若鮎の炭火焼、お食事は天然大鰻を使った丼でした。カウンターについてしばらくすると、店内に煙が立ち込めてきます。1キロを超える天然鰻を40分あまりかけて地焼きするためなのだそうです。香ばしい匂いが食欲をそそります。天然鰻は生命力が強いので、さばいてから数日経つと旨みが引き立つのだそうです。


今回、一番感心したのは若鮎の炭火焼でした。店主曰く、「平らに並べて焼くだけでは鮎の臭みが抜けず、頭が食べられない。一匹丸ごと美味しく頂くには、尻尾を斜めに立てて、脂が頭部にしたたり落ちるようにしてじっくり焼き上げるにかぎる」ということでした。小ぶりの緑釉俎板皿に川面を飛び跳ねているように盛りつけられた若鮎は、塩焼きとはまったく別物の野趣あふれる逸品でした。
店主の指示どおり、箸を使わず、手で持って頭からかぶりついて頂きました。鮎は15センチくらいが適当なサイズで、大きいからと云って内臓が大きくなるわけではないそうです。それにしても、活きた若鮎を仕入れられてこその味わい、四万十川長良川で採れた鮎でも鮮度が落ちれば使い物にならないと云う店主。「活きた魚を扱う料理人はドSでないと務まらない」とのたまう店主に一同すっかり納得でした。

銀座小十のお料理のもうひとつの魅力は、さりげなく季節感を演出してくれる器の存在。付出し2品目の車海老と夏野菜は、多治見の陶芸家加藤委(かとうつぶさ)作の美しい青磁器に盛られて出されました。形状は非対称ながらほれぼれするような美しい器でした。お造りが盛られていたのは店名の由来となった西岡小十作のお皿でした。右隣のお客様には、荒川豊蔵作の志野皿が・・・そして、お椀は輪島塗の銀彩で一客12万円也という具合です。

店主の丁寧な解説のお蔭で、ランチタイムがさながら「和食」セミナーでした。料理好きで味にうるさい家内にも、お料理と器がそれぞれ束の間の口福と眼福をもたらしてくれたことでしょう。