ボストン美術館所蔵国芳国貞展を振り返って

ザ・ミュージアムで開催されていた「ボストン美術館所蔵 俺たちの国芳 わたしの国貞」展(3/19〜6/5)が盛況のうちに閉幕となりました。会期末の前日にようやく鑑賞が叶いました。若冲ほどではないにせよ、すでに来場者は10万人を超え、朝一で現地に赴くとすでに長い行列ができていました。


江戸末期の天才浮世絵師国芳・国貞は共に初代歌川豊国に師事し、兄弟弟子の関係にあります。国貞が国芳の兄弟子にあたります。国芳は豊国の死後、武者絵のジャンルで一世を風靡、国貞は役者絵や美人画の分野で真価を発揮します。図録によれば、ボストン美術館所蔵の日本版画のコレクションは52000点を超えるのだとか(内、国貞作品は約1万点、国芳は約3800点)。ザ・ミュージアムに展示された国芳国貞作品は、こうした膨大なコレクションから選りすぐられた珠玉の逸品ということになります。

刷り上がったばかりかと見紛うばかりの色彩の鮮やかさに先ず驚かされます。極めて保存状態の良かった作品だけを収集し大切に保管してきたという証です。制作年代から150年以上という時の経過をまったく感じさせません。同時に、色彩の多様さと巧みで調和のとれた色彩配置に圧倒されます。細部に至るまで一切の手抜きが見られません。さほど大きくはない余白(スペース)の活かし方も絶妙です。三枚続きの大作を見ると、確かな構図に目を瞠るばかりです。

これほど素晴らしい作品群を精力的に収集したのはビゲローという名のコレクターです。著名な外科医だった父の跡目を継がず、日本に滞在した7年間にフェノロサ岡倉天心と交友を深め、浮世絵の収集に傾倒していったようです。幕末から明治にかけての大転換期に、疎んじられた浮世絵の収集に目をつけるとは慧眼の極みですね。日本では実業家の平木信二氏や原安三郎氏の浮世絵コレクションがよく知られていますが、ビゲローコレクションは質量ともに日本人コレクターのそれを遥かに凌駕しています。

展示も楽しめました。無類の猫好きで知られる国芳の作品に登場するネコが入口でお出迎えしてくれます。芝居小屋を意識して展示カテゴリーが歌舞伎の幕に見立てて区分けしてありました。各幕のタイトルを「異世界魑魅魍魎」という具合に漢字だけで表現したり、展示パネルに粋なキャプションを書き加えるなど、江戸情緒の再現に工夫が見られました。キュレーターの遊び心が随所で感じられます。

本展で特に印象に残ったのは三枚続きの「八島大合戦」や「頼朝公御狩之図」など源平合戦に材を得た作品、大胆かつ斬新な構図は現代のデザイナーも脱帽ではないでしょうか。