国立西洋美術館が都内初の世界文化遺産へ


昨日、上野の杜の国立西洋美術館ル・コルビュジェ(1887〜1965)の建築作品のひとつとして世界文化遺産に登録されることがほぼ確実になりました。前川国男東京文化会館の設計者)や丹下健三といった20世紀を代表する日本の建築家に多大な影響を及ぼした近代建築の巨匠の作品だけに、松方コレクションだけではなく建物も再評価されることになりそうです。

1950年代はじめ、財政難に窮していた日本政府はフランスから返還された松方コレクションを当初東博表慶館に展示する予定でした。ところが、仏政府がこれに難色を示し、専用美術館の建設を要請したという経緯があります。そこで、藤山愛一郎や美術界の泰斗らが中心となって民間から寄付金を募り、コルビュジェの名建築が誕生したというわけです。名画にはそれに見合った額縁が必要なように、作品群を収蔵する建築物も周辺環境と調和のとれた姿であって欲しいものです。その点、国立西洋美術館は数ある国内美術館のなかでも傑作のひとつだと思います。

美術館の竣工年がたまたま自分の生まれ年と同じだという理由も手伝って、この美術館にはひときわ愛着を感じています。正門前に立つと、広々とした前庭の石畳の向こうに佇む建物がすっぽりと視界に収まります。前庭にロダンブールデルの彫刻を配置したこともいいアクセントになっています。都心に林立する高層ビルとは対照的に、敷地に並行してまっすぐ東西に伸びる建物稜線の美しいこと。建築と身体の調和をめざしてル・コルビュジェが考案した「モデュロール」という尺度が採用されたことで、公共施設にありがちな威圧的な印象を一切与えません。天井高は低いところで226センチ(西洋男性が腕を上げたあたりの高さ)、高いところでもその倍です。

企画展は専ら地下展示室で行われますが、建造物としての見所は常設展示にあります。緩やかなスロープを昇った2階に常設展示スペースがあり、19世紀ホール上部を中心に回廊で繋がっています。スタートした場所に戻ってもう一度鑑賞することが出来るのが利点です。文化財保護の観点から、トップライトより注ぐ自然光が遮断されていますが、諮問機関の指摘するように、建築家の目論見どおり自然光で名画を鑑賞できれば最高ですね。

丹下健三都市建築研究所が中心となって作られた国立代々木競技場同様、国立西洋美術館は半世紀を過ぎたというのに眺めていて飽きることがありません。不朽の建築物たる所以です。