ヘレン・ミレン主演「黄金のアデーレ」

晦日に観た映画「黄金のアデーレ」の感想を記しておこうと思っているうちに、1月3日を迎えてしまいました。2015年は総じて不本意な1年でしたので、申年の今年こそ充実した1年にしたいと思っています。

晦日に映画を観たのは初めての体験。都内上映館がわずかに7つなので見過ごしてかねないと思い大晦日の昼過ぎ、TOHOシネマズシャンテに出掛けました。空席だらけだろうと思いきや、上映開始時刻には三分の一程度席は埋まってしまいした。意外でした。老若男女シングルの姿が目立つのも世相というものでしょうか。



ナチスに奪われたという1枚の絵画「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像」に秘められた家族の歴史が、カリフォルニアとウィーンを舞台に繰り広げられる法廷闘争を通じて、次第に浮き彫りにされていきます。絵画の作者は19世紀の美術界を代表する画家グスタフ・クリムト。タイトルになったアデーレの肖像画は「接吻」と並んでオーストリアモナリザとも讃えらる傑作、その肖像画をカリフォルニア在住のマリア・アルトマンが姉の死をきっかけに、オーストラリア政府を相手取って奪還しようと思い立ちます。英語では取り戻すことをRestitutionといいますが、アルトマン夫人が法廷で本来の字義を"Restitution...the return of something to its original state"とつぶやくシーンが印象に残りました。原状回復とは単に絵画を取り戻すことだけではなく、その絵画を取り巻く生活のすべてを元通りにすることなのだと観客は思い知らされます。

マリア・アルトマン(1916〜2011)をオスカー女優のヘレン・ミレンが好演、駆け出しのランディ弁護士役をライアン・レイノルズが熱演。実話を映画化すると安っぽい作品に堕してしまうということが往々にしてありますが、本作品の出来栄えは期待を裏切らない見事なものでした。愛憎交錯する祖国オーストリアへの思いから出廷を躊躇ったり過去を追憶するシーンを、ヘレン・ミレンは巧みに感情表現します。アルトマン夫人とヘレン・ミレンのツーショットを並べてみると、相貌も醸し出す雰囲気も酷似していることに気づかされます。名女優の役作りの賜物でしょうか。

誰もが知る名画がニューヨークのノイエ・ガレリアに展示された背景にこんな隠されたいきさつがあったとは思いも寄りませんでした。