『下町ロケット2』〜医療機器開発という着眼〜

直木賞受賞作の『下町ロケット』で新境地を拓いた池井戸潤の同書続篇が刊行されたので、早速読んでみました。テレビ放映が進行中ですので、ネタバレはなるべく避けて、続篇のテーマである医療機器の開発というテーマを掘り下げてみようと思います。

前回作は佃製作所が、帝国重工を相手に、ロケットのキーデバイスであるバルブシステムを提供するという話でしたが、続篇では一転、畑違いの小児用人工弁の開発に取り組むことになります。佃製作所が医療機器開発という新分野に取り組むきっかけは、福井県の株式会社サクラダ(福井経編興業という実在会社がモデルです)と北陸医科大学から、コードネーム「ガウディ」という名の共同プロジェクトへの参画を持ち掛けられたからです。風変わりなプロジェクトネームは、社長の桜田がガウディのサグラダファミリアに肖って命名したと書かれています。厚労省の認可手続きをめぐって、人工心臓の開発を手掛ける老獪な医学部教授、大手医療機器メーカー、そして佃製作所のライバル会社が、敢然と佃製作所の前に立ちはだかります。

前作同様、一気に引き込まれるストーリー展開となっています。半沢直樹シリーズで大成功し満を持しての今回のTVドラマ化ですが、原作がもともと映像にふさわしい内容な上にアップテンポなプロットが持ち味なので、高視聴率は当然の結果でもあります。テレビドラマの方は、かなり細部を割愛して2作を一気通貫で見せますので、やや物足りない気がします。それぞれを10回シリーズにすれば良かったのにと思えてなりません。

かねてから医療機器メーカーに関心が強くて、個人的にオリンパステルモという銘柄に熱心に投資しています。本作には、医療機器開発の舞台裏に迫る側面があって大変興味をそそられます。特に、実在するPMDA(パンダという愛称なのだそうです)という医薬品や医療機器の承認審査を一手に引き受ける組織に焦点を当てたのはいい着眼だと思います。

PDMAとはPharmaceuticals and Medical Devices Agencyの略称で、日本語では独立行政法人医薬品医療機器総合機構といいます。日本には一見して何をしているのかよく分からない官僚組織が多数存在しますが、この組織も例外ではありません。日本の医薬品承認プロセスが欧米に比して長いことはよく知られていますが、医療機器にも当て嵌まるのことを本書は活写しています。デバイスラグといって、長い審査を経てようやく製品化してみたら、すでに性能面で陳腐化していたという事態が頻発するのが医療機器開発の世界です。

国内最大手の武田薬品工業ですら、ファイザーやノバルティスと比べると、売り上げ規模では相当に見劣りします。医療機器業界となると、J&JやGEのような米国企業によるガリバー型寡占状態にあり、国内トップクラスの東芝オリンパスでさえ規模においては芥子粒のような存在です。

アベノミクスの成長戦略において医療機器の輸出強化が打ち出されているようですが、旧態依然とした官僚機構による独善的な許認可・承認プロセスにメスを入れて、欧米メーカーと競い合えるような環境を整備して欲しいものです。少量多品種と云われる医療機器ビジネスの世界こそ、日本人が欧米に伍して活躍できる分野だと確信するからです。