藤田美術館蔵「曜変天目茶碗」を拝む


先月27日までサントリー美術館で開催されていた「藤田美術館の至宝 国宝 曜変天目茶碗と日本の美」展について、触れておこうと思います。

藤田美術館大阪市都島区網島町にあって、常設展示をしないことで知られています。春と秋の企画展を狙って訪れればいいのですが、これまで縁がありませんでした。館外の東京で所蔵品が一堂に公開されるのは初めてなのだそうです。

会場で美術館の創設者藤田傳三郎氏の生涯を紹介するビデオを見て、多彩な活動領域に目を瞠りました。同和鉱業(現:DOWAホールディングス)の礎を築いた人程度の知識でしたので、今日の東洋紡南海電鉄、関電等を設立した関西財界を代表する実業家だったと知り、認識を新たにしました。騎兵隊にも加わった長州人でありながら官途に就かずあえて商いの道を志したところが、藤田氏の先見の明だったのでしょう。小坂鉱山の開発や児島湾干拓事業は彼の偉大な功績です。

そうした実業家としての成功の傍ら、明治期の廃仏毀釈によって散逸しそうになった仏像や仏画等を収集し、広く文化財保護に尽力します。財力だけではなく卓越した鑑識眼を持ち合わせていたからでしょう、そして、長男平太郎が世界に3点しかない建盞の最高峰「曜変天目茶碗」のひとつと巡り合うことになります。2年前、当ブログで静嘉堂文庫の「曜変天目茶碗」を取り上げましたが、今回の展覧会で奇蹟の2椀目を拝むことができました。曜変の斑紋が外側にも現れているのが特徴です。天井から円形の房を垂らし、正面奥に茶碗のシルエットを投影する展示にも工夫が凝らされていました。

ほかにも快慶作《地蔵菩薩立像》や《紫式部日記絵詞》など、初めて目にする逸品ばかりで、至福の時間を過ごすことができました。