「マイ・インターン」初日(一部ネタバレあり)

ロバート・デ・ニーロアン・ハサウェイと共演すると知って、初日に映画館に足を運びました。華やかなファッション業界を舞台に、72歳になる名優演じるシニア・インターンと「プラダを着た悪魔」で一躍有名になった32歳のアン演じる若き起業家が、様々な難局にぶつかりながら次第に距離を狭めていくところが本作の見どころです。

名作「ディア・ハンター」や「タクシードライバー」で往年のデ・ニーロを知る映画ファンのなかには、後半主人公ベンが一転豹変するのではと思った向きもあるかも知れませんが、その心配は無用です。柔和で温厚な紳士ベンは豊かな人生経験を活かして、真摯にそしてときにコミカルに次々と上司や同僚の悩みを解決していきます。シニア・インターンというよりシニア・アドバイザーというのがベンの役どころなのです。ベンが以前勤めていたのは電話帳制作会社(アナログ会社の典型で前世紀の遺物)だったという経歴も、後半への巧みな布石になっています。

イー・コマースの牙城とも云えるファッション業界では、スマホSNSが大活躍。デジタルデバイド世代のベンがITツールと格闘しながら、逆にデジタル世代をオンからオフへと引き込むあたりは、中高年男性喝采の場面展開と云えるでしょう。余計な詮索ですが、ロバートとアンを共演させてデジタル世代もアナログ世代も劇場に取り込もうという戦略は、興行的にも抜け目がありません。大成功じゃありませんか。ようやくメールに慣れてきたベンが、ボスからのメールを期待して来る日も来る日もメールボックスをチェックする場面は前半の見どころです。"No new message"という表示に落胆した経験は誰しもありますから、ついつい感情移入させられます。

本作を注意深くご覧になった方は、お気付きでしょう。本作にはデ・ニーロの代表作「タクシードライバー」へのオマージュがさりげなく挿入されています。”you talkin’ to me”とルームミラーを覗き込むあのシーンです(不眠症に悩むトラヴィスへのオマージュは他の映画にも登場します)。そもそも、シニア・インターンのベンが運転手の代わりを務める設定自体が、「タクシードライバー」へのオマージュと云えるでしょう。アンが乗り込む社用車は、本作の粋な小道具になっていますので移動シーンも注目です。

リメイク版"Shall We Dance"のリチャード・ギアといい、本作のデ・ニーロといい、ロマンス・グレーの魅力を余すところなく表現しています。スクリーンのなかの彼らは中高年の星には違いありませんが、数十億光年先に輝く一等星。内面も容貌も残念ながら日本人男性の到底手の届かない存在。二三、学ぶべき点があるとすれば、常時(清潔な)ハンカチを携え、たまにはお洒落(ネクタイ)をしようということかな・・・でも計算づくだと異性からは見透かされてしまうかも。gentlemanへの道は長く険しい・・・いずれにせよ、ワーキング・ウーマンが職場でこうした紳士を探そうとしても、それはないものねだりというものでしょう。ワーキング・ウーマンは年を重ねてレネ・ルッソを目指そうではありませんか。それにしても、クローゼットで瞬き(blink)の練習をするデ・ニーロなんて、実にお茶目で可愛いですね。

本作字幕スーパー版を観ると、ニューヨーカーの生きた英語も楽しめます。ベンを押し付けられたアンが配置転換を命じるシーンで、部下からどうしてと尋ねられて"(he is) so observant"と答えます。目ざといから嫌って感じがストレートに伝わってきますね。「マイ・インターン("The Intern)"」は、テンポもプロットもベストフィットで、久しぶりに泣き笑いさせられた映画でした。