『原発敗戦』で知るメルトダウンの真相

作家・半藤一利氏との特別対談収録という帯に惹かれて、船橋洋一著『原発敗戦』を手にとってて以来、原発関連の書籍を読み漁っています。ひんやりとした空気が支配する10月を迎え、読書の秋も本番、この機に4年半を経過した福島原発の負の連鎖の真相をブログでも記録しておこうと思います。

かつて勤務していた投資銀行という職場では、しばしば”Worst Case Assumption(or Scenario)”という言葉が飛び交っていました。文字通り、最悪のケースを検討しろということです。2011年当時、極秘にされていた菅政権想定の「最悪のシナリオ」とは、1〜3号機に加え他の燃料プールが次々と損壊した場合、170キロを強制避難、250キロを自主避難とする衝撃的な内容でした。東京都や埼玉県の全域が汚染地域となるという恐るべき想定です。この頃、トモダチ作戦の最高司令官が在日米軍司令官から太平洋艦隊司令官に急遽交代しています。日本破滅のシナリオに基づくものと官邸は戦慄したといいます。

「全電源喪失」という過酷な現実から終始目を背け、「最善のシナリオ」にベットした日本の原子力行政と事業者はまさに太平洋戦争を主導した大本営でした。起きると困ることは起きないと考えたわけです。戦時中同様、危機が到来したとき、報道規制統下のメディアの報道を鵜呑みにしないことです。欧米人のみならず、飲食店で働くアジア人がいち早く日本を出国した事実を忘れてはいけません。法務省入国管理局の資料によれば、震災後1週間で外国人出国者は24万4千人(前週は14万人)に急増しています。本書を読むと、真のリーダー不在の日本にあっては、危機に際して組織の利益や省庁の権益が最優先され、国民の生命や安全が二の次にされる危険が高いということを再認識させられます。

「絶対にないとは言えません」と煮え切らない発言を繰り返した班目春樹原子力安全委員会委員長、120億円を投じながらSPEEDIの活用を見送った文科省、対策統合本部が設置された3月15日に互いに名刺交換していた東電幹部・・・・昼夜を徹して現場で事故対応にあたった東電や協力企業の役職員の姿と比べてどうでしょう、彼岸の差ではありませんか。

3月11日19:03に「原子力緊急事態宣言」が発せられたとき、平時から有事へのモード転換の号令だと察知した国民は極めて少数だったのではないでしょうか。そのとき、日本は国家破滅の危機に瀕していたのです。