「没後180年 田能村竹田」展を振り返って


会期が2か月足らずの「没後180年 田能村竹田」展を見逃してはならじと今月中旬、出光美術館を訪れました。

同美術館は、第10回本屋大賞を受賞した『海賊とよばれた男』で一躍有名になった出光興産創業者出光佐三氏が1966年に開設したもので、帝劇ビルの9階にあります。皇居外苑が一望できる喫茶スペースがあって大変居心地のいい美術館です。

田能村竹田(1777〜1835)は江戸後期の文人で、山水図や花鳥図だけではなく多数の著作を遺しています。職業画家ではない官吏や知識人が余技で描いた絵は文人画或は南宋画と呼ばれ、竹田の絵もそのジャンルに含まれます。

田能村竹田の名前を知ったのは、学生時代に大西巨人の代表作『神聖喜劇』を読んだことがきっかけでした。主人公「東堂太郎」が対馬要塞重砲兵連隊への入営に際して持参した書物のなかに、洋書や辞書に混じって、何とも重厚な印象を与える「田能村竹田全集」が含まれていたからです。

中国本土の文人を凌ぐほど、古典や漢詩に通暁していたと云われる田能村竹田の文人画を眺めていると、恰も時の流れが止まったように感じます。俗世から一線を画した「自娯適意」の自由な暮しへの憧憬が余すところなく表現されています。旅を好んだのも悠久の自然に対する敬愛の表れかも知れません。

文人が到達しようとする境地とは無縁な人生を過ごしていますが、せめて、たまには文人画でも玩味して、俗世の垢を落とすよう努めたいものです。