「おみおくりの作法」(原題"Still Life")を観て

昨日は、東京都観光ボランティアの全体研修会に出席した足でシネスイッチ銀座へ。正午過ぎから冷たい雨が降りだして、普段は賑わう銀座4丁目周辺も人影がまばらでした。うってつけの映画日和とばかり映画館受付へ急ぐと、目に飛び込んできたのは入口に蝟集する傘。14時50分の部はすでに満席で立ち見しかありませんとお断りが・・・・やむなく17時からのチケットを買って出直す羽目になりました。その間、並木通りのQueenswayでフットリフレクソロジーを受けて時間を潰したのでした。

2008年に公開された「おくりびと」(アカデミー賞外国語映画賞受賞作)を髣髴させるタイトルに惹かれて観ることにしたのですが、期待を裏切らない作品でした。まだ2015年は始まったばかりですが、今年の一押しかも。

舞台はロンドンのケニントン、ロンドンアイの南東に位置するこの地区で民生係を務めるジョン・メイが主人公です。勤続22年の風采の上がらないこの中年男性の仕事は、孤独死した人が残した遺品を頼りにその家族や縁者を尋ね歩き、弔いを行うことです。彼の執務机には、"Status Report"と書かれた書類が山積みされています。ジョンは、来る日も来る日も写真や郵便物のようなわずかな手掛かりをよすがに方々を尋ねてまわります。やっと親族を探し当てて葬式への参列を依頼しても、思うように親族の承諾は得られません。結局、ジョンひとりが教会で立ち会って、身寄りのない死者をお見送りすることになります。教会には、故人のために彼が選んだBGMが流れます。

ロンドン特有のどんよりとした空をバックに、ジョンがいつも通り過ぎる町角が何度となく映し出されます。そして、淡々と過ぎゆく下級官吏の毎日にある日、重大な転機が訪れます・・・・

邦画「おくりびと」では鄭重に故人の弔いをする親族の姿が度々登場しますが、「おみおくりの作法」では些か状況が異なります。長い間疎遠になっていたせいでしょうか、ジョンがようやく親族や縁者を探し当てても、彼らは迷惑がるだけで故人への冷淡な態度を決して翻そうとはしません。

そんな親族に対して、ジョン・メイはそれ以上黙して語りません。静かにピアノの旋律が流れだすと、観客は彼の沈黙に込められた思いにさまざまな想像をめぐらすに違いありません。彼の自宅のアルバムには身寄りのない故人の写真が一枚一枚丁寧に張りつけられていきます。<死は誰のためにあるのか>、その問いの答えをジョン・メイが生き様を通じて教えてくれます。

本当にいい映画でした。また時を隔てて観てみようと思います。