最高峰のオペレッタ「こうもり」

29日は新国立劇場(以下、「新国」)へ出掛け、「こうもり」初日を観て参りました。オペラ通に言わせると東京文化会館がベストらしいのですが、自宅最寄駅から20分足らずで行ける新国は近くて有難い存在、ホールの音響も決して悪くありません。確かに海外名門オペラ劇場の来日公演には抗い難い魅力がありますが、近年は新国が地力をつけてきたなと感じています。いわゆる「引っ越し公演」でなくても、実力派の外国人歌手と日本人歌手のコラボ(+東京交響楽団+東京シティ・バレエ団)で十分観客を魅了する舞台が実現していることを、今回も肌で感じてきました。

「こうもり」はオペレッタ(軽歌劇或いは喜歌劇)の最高峰。舞台は1874年大晦日オーストリア・イシュルです。最高峰のオペレッタでありながら、軽妙で娯楽性に富む舞台のせいでしょうか、オペラとオペレッタは別物と主張する人がいて、正統派のオペラ歌手はこの演目を嫌うという話も耳にします。自分にとっては大好きな演目のひとつです。堀内修さんの『これだけは見ておきたいオペラ』(新潮社)の傑作オペラ50選に入っていないことにかねてより不満を感じてさえいます。2012年度の日本における公演回数で、「こうもり」は「トスカ」、「魔笛」に次ぐ3位だったそうですから、人気のほどは折り紙つきなのです。


何より、ウィーン・フィルニューイヤーコンサート常連となっている序曲の軽やかで愉しいこと。これほどうってつけの導入曲があるでしょうか。1987年にはカラヤンニューイヤーコンサートで「こうもり」を指揮しています。ストリングスのユニゾンが8分音符を刻み、クレッシェンドするとワルツが始まります。力強いメロディに続いて、ヨハン・シュトラウスらしい躍動的な旋律が流れてきます。カルロス・クライバーの「こうもり」は名盤で知られていますね。


全3幕ドイツ語上演ながら、随所に日本語による台詞演出を採り入れ観客を笑いに誘ってくれました。幾度か、ホール全体が若い観客の笑い声に包まれました。オペラの裾野が拡がって、上質なオペラ公演機会が増えることを心から願っています。