2014年マイ・ベスト・ブックは『21世紀の資本』(トマ・ピケティ)で決まり

2014年もあと数時間になりました。ソチ五輪で男子フィギュア初の金メダルを獲得した羽生結弦、全米テニス準優勝の錦織圭WOWOW契約しちゃいました)、青色発光ダイオードの開発でノーベル物理学賞を受賞した赤崎・天野・中村の三氏、彼らの偉業は日本人の強さを世界に見せつけてくれました。記憶に残る1年になりました。

一方、唐突に衆議院を解散して安定多数を再確認した安倍内閣の真価は来年試されることに。消費増税を先送りした以上、デフレを早期に解消し経済を安定軌道にのせて欲しいものです。

アベノミクスの弊害のひとつに格差の拡大が挙げられます。12月8日、書店に一斉に平積みされたトマ・ピケティ著『21世紀の資本』は、アベノミクスの負の側面を考える上で絶好の著作です。歳末駆け込みではありますが、2014年のマイ・ベスト・ブックは文句なしに『21世紀の資本』で決まりです。

本書は長期的な所得と富の分配をめぐる研究成果を明らかにし、格差の拡大解消のために世界的な累進的資本税の導入を提唱しています。

社会人になって数十年経てばいずれ現役を退くときがやってきます。所得の源泉が労働に基づく賃金から資本からの所得に変わるタイミングはまさに定年や現役引退の時期に重なります。
筆者ピケティは、21世紀を迎え低成長の時代が復活すると、資本の平均年間収益率が経済成長率を絶えず上回ることになると、r>gの不等式を示して説明します。言い換えれば、労働対価より資本ストック(+相続財産)が遥かに増えていくということになります。

サラリーマンもセカンドキャリアが形成できれば、先の不等式は個人レベルでは必ずしも当て嵌まらないわけですが、現実はそんなに甘くはありません。我が国では、団塊の世代が富を蓄積し、今の40代・50代は年金受給時期さえ定かではない厳しい現実に直面しています。米・独・仏・英・日の先進諸国の国民所得をはじめとする統計データを駆使した実証的研究は、日本の現実も鋭く解析してみせます。分野を超えて歴史やその時代の小説から学ぼうとする筆者の姿勢は、賢者のそれに違いありません。

数学フェチに陥り世間離れした経済学者を批判し、格差拡大に歯止めをかけるために筆者は正義の実現を見たいとも述べています。総論に異論はありません。ただ、各論ではデモグラフィ(特に居住地域や学歴、職種等)に基づく緻密な資本税のあり方を模索していかないと、誰もが納得する平等は実現しないような気がします。本書は実に困難な問題を提起してくれました。これほどexcitingな著作の邦訳が歳末に刊行されたことを素直に喜びたい心境です。

21世紀の資本

21世紀の資本