2014年11月吉例顔見世大歌舞伎〜染五郎の初弁慶役〜

今夜は数か月ぶりの歌舞伎座、演目は≪御存鈴ヶ森≫、≪勧進帳≫、≪義経千本桜(すし屋)≫の三幕、組み合わせが絶妙でした。チケット争奪戦に参戦し、花道右前列2番目の席を確保した甲斐があったというものです。

一幕目は世話物で四世鶴屋南北作≪浮世柄比翼稲妻≫の(刑場)鈴ヶ森の場面から。前半は、江戸へ逃亡しようとする鳥取藩士権八の雲助相手の立ち廻りが見所。後半は任侠の祖幡随院長兵衛が権八の正体を知った後の遣り取りがクライマックスです。ふたりは実在の人物で若くして落命していますが実はタイムラグがあって、舞台のような出会いはあくまでフィクションです。江戸で再会を果たした権八が長兵衛の食客になったという後日談を彷彿とさせる静かな幕切れでした。

今夜の≪勧進帳≫を特別な想いで見つめていた観客は少なくなかったと思います。自分もそのひとりでした。染五郎が41歳にして初めて弁慶を演じるのですから。昨年の杮葺落公演で弁慶を演じたのは父幸四郎。今回は弁慶を1000回以上演じた父(富樫)並びに叔父吉右衛門義経)との共演です。染五郎の胸中は察するに余りあるというものです。

しかし、遅すぎたデビューという余計な心配は弁慶が舞台に現れた瞬間、雲散霧消。満を持してのデビューという讃辞にふさわしい堂々たる弁慶を演じてくれました。アップテンポの山伏問答も見応え十分でした。幕引き後、花道に踏み出して飛び六法に向かう染五郎の額には今にも滴らんばかりの汗が見えました。誠に血は争えないものですね。

3幕目は、≪義経千本桜≫の三段目から。九郎判官義経にまつわる名場面のひとつ≪すし屋≫の段は、勘当息子権太の改心と平家を滅ぼした頼朝の惻隠の情が複雑に絡み合って、予想外の結末を迎えます。権太に褒賞として与えられた頼朝の陣羽織が重要な役割を果たすことになります。初めて見る演目でしたが、最後は泣けました。