池井戸潤の「オレバブ」シリーズが面白い

秋の夜長、ツンドク状態の新刊本の山を少しでも減らそうと読書に勤しんでいます。池井戸潤さんの「オレバブ」シリーズ第三弾『ロスジェネの逆襲』は、前作・前々作同様、テンポよく読める痛快企業小説(舞台は銀行)に仕上がっていて楽しめました。シリーズ読者の期待を裏切らない内容です。「オレバブ」とは「オレたちバブル入行組」のことで、都市銀行が就職戦線で人気絶頂を誇っていたバブル期に銀行に就職した若者を指しています。主人公の半沢直樹は、シリーズ初回作の支店勤務を経て、次回作『オレたち花のバブル組』で本店営業第二部の次長に栄転、最新作では証券子会社に出向し部長職に就任します。

シリーズ各巻で浮き彫りにされる銀行という組織の負の側面には、二十代に都市銀行に在職していた自らの経験に照らしても思い当たることが多々あります。フィクションながら、不良債権処理や浮き貸しの実態が丁寧に描かれています。とりわけ興味深いのは、就職時の銀行が度重なる合併でいずれも姿を消し去り3メガ体制に収斂するなか、旧行意識は寧ろ増幅されていくという点です。思えば、80年代に主要21行と呼ばれた銀行すべてが合併や経営統合で往時の名を喪っています。銀行の数が減り重複する支店が統合されれば当然ポストが減ります。結果、新銀行は陰湿な権力闘争の舞台となります。

オレバブ」が勤務する東京中央銀行でも、S行とT行の出身者がことある毎に対立します。些細な点も例外ではありません。代金取立手形を「代手」と呼ぶか「取手」と呼ぶかで争いが生じ、女子行員が昼間から「だいてちょうだい」ではいかにも拙いと「取手」に統一する場面は象徴的かも知れません。稟議書の文体をめぐる両行の対立も昔を思い出して笑えました。

S行出身の半沢は、下らない旧行閥にとらわれずロジカルに正論を唱え、新作ではカスタマーサティスファクションを一義に企業買収をめぐる騒動に巻き込まれていきます。上司にも媚びへつらわないので、対立勢力からは様々ないやがらせをされる上に悪質な罠さえ仕掛けられます。しかし、硬骨漢半沢はへこたれません。持前の与信分析能力を駆使して難題と格闘し、最終的に銀行の利益を擁護します。半沢を敵に回して倍返しを食らう上司や重役の姿に読者は快哉を叫ぶことになります。しかし、徹底的に敵を追い詰め生殺与奪の権能まで握りながら、主人公は彼らに逃げ場を与えます。にくめない半沢の等身大の活躍を是非シリーズでお愉しみ下さい。

ロスジェネの逆襲

ロスジェネの逆襲