セレンディピティを味方につけるには

ノーベル化学賞受賞者の根岸英一先生が、日経連載中の「私の履歴書」(2012年10月22日付)のなかで新発見に繋がる前提条件として10項目を列挙されています。

何が欲しいかという願望やニーズが大前提、その先にあって最も大切な項目は系統だった模索だそうです。闇雲に新発見や新発明に辿り着こうとしても成功確率は上がらないというわけです。政治経済や外交が総崩れの日本にあって、唯一の希望ともいうべきサイエンスの分野における碩学の言だけに説得力があります。ただ、セレンディピティSerendipity*)が最後の10項目に登場したのは意外でした。根岸先生はセレンディピティがなくても発見は可能だと主張されています。

serendipity: an aptitude for making desirable disvcoceries by accident

この点については少し異論があります。サイエンスに限らずあらゆる分野で革新的な業績を上げるには、セレンディピティを味方につけるという発想こそ重要なのだという気がしてなりません。2002年に根岸先生に先駆けてノーベル化学賞を受賞した田中耕一さんは、試薬を取り違えたことに気付きながら<もったいない>とそのまま実験を続け、高分子タンパク質の質量分析手法を発見しています。まさに失敗のイノベーションです。今年、ノーベル生理医学賞を受賞した山中伸弥先生も「実を言うと、24個の中に正解がある確信はなかった。宝くじに当たったようなもの」と山中因子発見の経緯を振り返っています。大発見はロジカルなプロセスの当然帰結ではないようです。

根岸先生にとってはエターナルオプティミズムや不屈の行動力(弛まぬ努力)こそセレンディピティを味方につける有力な武器だったのでしょう。セレンディピティを引き寄せる方法は人それぞれですが、あえて共通項を見出すとすれば、ときに訪れるささやかな幸運(の女神)に感謝する心にあるように思います。お蔭様という気持ちが人生の成功を手繰り寄せる秘訣なのかも知れません。