シニア世代にお薦めしたい「キリマンジャロの雪」

岩波ホールで封切られたばかりの「キリマンジャロの雪」を観てきました。たとえ商業ベースには乗らなくても上質な映画を配給したいという岩波ホールらしい選択の映画でした。監督は「マルセイユの恋」のロベール・ゲディギャン、ヴィクトル・ユーゴの詩篇『哀れな人々』に着想を得て製作されたそうです。

港町マルセイユで結婚30周年を迎えた夫婦が、強盗事件をきっかけに周りの反対を押し切って信念を貫いたある行動に出るというストーリーです。リストラ、世代間格差、高齢者介護、子育て、住宅ローンといった先進国共通の深刻な社会問題が、シニア世代のカップルの眼を通じて浮き彫りにされていきます。解雇手当を糧に糊口を凌ぐことが可能な主人公夫婦は、ありきたりの暮らしを続けることに次第に疑問を呈するようになります。

世界的に景気後退が進むなか、人間関係はともすればぎくしゃくし乾き切った空気が職場や家庭に蔓延しています。そして、人と関わることは寧ろマイナスだという価値観が支配的になりつつあります。そんな時代閉塞の状況に逆らって、お節介に乗り出す主人公夫婦の阿吽の呼吸が見所のひとつです。