映画「マネーボール」の痛快

このほど米経済誌「フォーブズ」が算出した大リーグ30球団の資産価値ランキングを見て、NYヤンキースの圧倒的な資金力を改めて思い知らされました。2位のドジャーズを大きく引き離してヤンキースの資産額は18億5千万ドル(邦貨換算:1500億)、道理でメジャープレーヤーに破格の年俸を約束しても屋台骨はビクともしないわけです。

一方、30球団の最下位はオークランド・アスレチックス、資産価値はヤンキースの5分の1足らずです。昨秋上映された「マネーボール」は、このどんじりアスレチックスが奇想天外な補強策を武器に最強球団に挑むという史実を基に製作されたものです。映画はリーグチャンピオンシップゲームで弱小アスレチックスがヤンキースと対戦する場面から始まります。シーズン終了後にアスレチックスの強打者2選手が去って、ブラッド・ピット演じるGMビリー・ビーンがチームの立て直しに乗り出します。貧乏球団ですからお金で有力選手をスカウトすることは出来ません。GMビリーが主観や勘に頼る老獪なスカウト連中を斥けて起用したのは、イェール大学で経済学を専攻したピーター・ブランド。彼は野球についてはズブの素人ながら、(打率ではなく)出塁率という数字にこだわり統計的手法を駆使してアスレチックスを安くて勝てるチームに変貌させていきます。現場主義の日本の野球とは一線を画した米国流マネジメントの真骨頂が見てとれます。

昨年公開された映画のなかでは「マネーボール」はピカ一かも知れません。原作の副題は"The Art of Winning An Unfair Game"。不公平な条件を克服して弱小チームが勝利するというサクセスストーリーもさることながら、映画は、社会の評価システムから零れ落ちたGMビリー自身の生い立ちに迫りその再生もテーマにしているので、ベースボールファンならずとも愉しめる内容に仕上がっています。ベースボールはアメリカ人にとってNational Pastime(国民的娯楽)というべき存在、これからも映画の世界ではベースボールを題材に優れた作品が生みだされるのでしょう。