『3・11 複合被災』を読んで

上梓されたばかりの『3・11 複合被災』を手に取るまで、筆者の外岡秀俊さんが朝日新聞社を早期退社されたことを知りませんでした。これからは。フリーのジャーナリストとして出身地札幌を拠点に活動されるようです。高校卒業間際に氏の処女作『北帰行』を読んで以来、ずっと気になる存在でした。大学卒業後、朝日新聞社に入社、ジャーナリストの道に進まれたので、瑞々しい感性が発露する彼の小説を読むことは出来なくなりました。その代わりに、やがて、犀利な観察力で切り取られた署名記事を新聞紙上で目にするようになります。

阪神大震災を取材した労作『地震と社会』(みずず書房)を世に問うた氏が、東日本大震災をどう取材し何を語るのかと思っていたところ、震災1年足らずで本書が出版されました。筆者は、10年後に中学生や高校生になる次世代の人々に大震災の正確な輪郭を伝えたいという願いから、丹念に被災者の声を拾いルポにし、東日本大震災の全体像を前例のない複合被災と位置づけました。大震災から1年が経ち、書店には震災関連の本が溢れています。良書を撰びだすのは容易ではありません。メディアを通じて垂れ流される厖大な震災情報についても同様です。大震災から然るべき教訓を引き出しこの国の復興再生に繋げるためには、筆者の言うように、想像力を研ぎ澄まし感性を磨くことから始めるしかないようです。

3・11 複合被災 (岩波新書)

3・11 複合被災 (岩波新書)