「最も幸せな負け」

今年の全豪オープン•ファイナルは史上最長の5時間53分に及ぶ文字通りの死闘でした。会場のメルボルン•パークで世紀の対決に立ち会えたテニスファンには堪えられない時間だったことでしょう。世界ランク上位同士の試合を見るにつけ、テニスは格闘技だと思い知らされます。歴史に残る世界ランキング1位と2位の頂上対決を制したのは、4時間50分を戦った準決勝の激闘から中1日でファイナルに臨むことになったジョコビッチ。対戦相手のナダルはストレート勝ちを重ねてのファイナル進出、体力面では明らかにナダルが優勢、にもかかわらず幸運の女神はジョコビッチの方に微笑みました。

フェデラーナダルの二強時代が崩れ、ジョコビッチが昨年のウィンブルドン、全米に続き、全豪を制しての三連覇、準々決勝で錦織選手を寄せ付けなかったマレーも含めた四強は素人目にも別格に映ります。特に、三強の微妙な対戦成績が四大大会を殊の外面白くさせているように思います。ジョコビッチナダルに強く、ナダルフェデラーに強い、そしてフェデラージョコビッチ に強いという不思議な三角関係が、トーナメントの組合せ次第で勝者と敗者を分かつことになります。次は、史上8人目となる生涯グランドスラムに挑むジョコビッチの全仏の戦い方に注目です。

三大会連続で準優勝に終わったナダルが試合後の表彰式で次のように挨拶しています。"I am not happy to lose the final, yes, but that's one of the losses that I am happy with in my career" 疲労の極にありながら、昨年6回負けた相手に勝つチャンスが十分あったと冷静に分析した上で、こんな言葉を紡ぎだせるナダルには心底感服しました。勝者以上に歴史に名を刻んだのは敗者ナダルかも知れません。