向田邦子さんの命日

8月22日の今日が向田邦子さんの30年目の命日にあたります。天声人語や春秋のコラムニストが申し合わせたように飛行機事故で亡くなった向田邦子さんのことを取り上げています。物書きにとって今も向田邦子さんが眩しい存在だということが分かります。丸谷才一直木賞の選考委員だったエッセイの名手山口瞳にこう言ったそうです「詮衡委員になって一番辛いことは、候補者に自分より上手い人がいるときね」と。山口瞳は「自分より小説が上手い」と言って向田さんを直木賞に推したといいます。向田作品にはありふれた日常に対する愛着がさりげなく散りばめられています。鋭い観察眼で切り取られた日常はときに残酷でハッとさせられることさえあります。

今年は30年目の節目ということもあって向田さんの代表作が幾つかテレビで放映されたので、久しぶりに「阿修羅のごとく」を観ました。筋書きは分かっていながら、台詞の消えたシーン(ネタばれするのでこれ以上書きません)では凍りつきました。珠玉のドラマのバックにはジェッデイン・デデンというトルコの軍楽行進曲が流れます。「どんな日常もこの行進曲のように後退することはありませんよ」と作者の囁きが聞こえてきそうです。「かわうそ」という短編も阿修羅に通じる印象に残っている作品です。阿修羅以前のホームドラマでは家庭不和、不倫、セックスというテーマはタブー視されてお茶の間には登場しなかったそうです。そうだと知ると,いよいよ向田邦子さんの先見性に感心させられます。向田作品の内容は勿論ですが、タイトルも絶妙です。秋の夜長、家族の原風景を訊ねてまた向田作品を手にとつてみようと思います。

阿修羅のごとく (文春文庫)

阿修羅のごとく (文春文庫)