忠臣蔵ミステリー

18日に封切られたばかりの『最後の忠臣蔵』を観てきました。江戸城松の廊下で起きた浅野長矩の刃傷沙汰に始まり四十七士による吉良邸討ち入りで大団円を迎えるのが巷間知られた忠臣蔵だとすれば、『最後の忠臣蔵』は吉良邸討入り後からストーリーが展開していきます。民放屈指の大河ドラマで知られる『大忠臣蔵』(1971年)をブラウン管テレビで見た記憶もある忠臣蔵フリークとしては史実に着想を得たこうした小説の映画化も大歓迎です。浅野長矩が公儀から即日切腹自殺を命じられたために刃傷沙汰に至った本当の理由は今以て謎のままですし、主君切腹から1年9か月余りに及ぶ討ち入りまでの浪士の艱難辛苦は様々な逸話や伝承を生み出しています。日本人の心をこれほどまでに揺さぶる史実は元禄赤穂事件以降ないと云っていいでしょう。本作の忠臣蔵秘話には敢えて触れませんが期待以上の出来栄えだと云っておきます。討ち入り直前に逐電した瀬尾孫左衛門(実在)を役所広司が、瀬尾の盟友寺坂吉右衛門佐藤浩市が演じています。近松門左衛門曽根崎心中の舞台が効果的に挿入されていて哀感を誘います。吉良贔屓で忠臣蔵嫌いの家内(出身地が吉良上野介の領地に近い故)も一緒に鑑賞したのですが目にうっすらと涙を浮かべていました。帰路、そんな家内が<一時の感情で刃傷沙汰を起こし赤穂藩をとり潰した上に藩士を路頭に迷わせた浅野長矩はやはりばか殿だ>と呟きました。その通りだと思います。