サイトウ・キネン・オーケストラを聴く

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10月15日深夜にNHK教育で放映された「芸術劇場-サイトウ・キネン・フェスティバル松本2010-」はぞくっと鳥肌が立つような実に感動的な公演でした。本公演は年初に食道癌に罹っていることを告白されウィーンと日本で予定されていた30公演をすべてキャンセルし治療に専念してこられた小澤征爾さんの復帰初舞台であり、聴衆は固唾を呑んでマエストロの登壇を待ち焦がれていたに違いありません。テレビの映像からもその緊張感がビシビシと伝わってきました。闘病生活で15キロも痩せたマエストロにとって公演すべてを指揮することは体力の限界だったのでしょう、特別の一曲として披露されたのはチャイコフスキーの弦楽セレナーデ第一楽章でした。この曲は恩師齋藤秀雄を偲んで1992年にサイトウ・キネン・オーケストラが結成されたときに演奏された曲でもあり、原点に回帰するような気持ちで小澤さんは指揮棒を振られたのではないでしょうか。僅か7分余りの演奏でしたが、大編成にもかかわらず、室内楽のような美しい調べでした。冒頭でヴァイオリンが奏でたカンタービレはしばらく頭から離れそうにありません。小澤さんが降壇されたあとを引き継いで下野竜也さん(ブザンソンで2001年に優勝されています)が、故武満徹作曲の「ノヴェンバー・ステップ」を指揮されました。武満さんの代表曲ですが聴いたのは初めてです。琵琶と尺八という邦楽器をオーケストラとコラボさせるという大胆な試みは面白いと思えました。パイオニアとして日本のオーケストラを引っ張ってきた小澤さんの志がこうして次の世代に承継されることがファンの願いでもあります。余談ですが、3年前に北京旅行ツアーでご一緒した磯野祐子アナウンサーが本番組のキャスタ―だったのは嬉しいサプライズでした。