『おおきな木』を読んで

シェル・シルヴァスタイン作・本田錦一郎訳の篠崎書林版『おおきな木』(原題”The Giving Tree”)が村上春樹さんの新訳で甦りつい最近あすなろ書房から出版されました。息子がまだ園児の時分、良質な絵本を求めて原宿のクレヨンハウスによく足を運んだものですが、その頃入手した沢山の絵本のなかでとびきり印象に残ったのが『おおきな木』でした。懐かしさのあまり村上訳も早速読んでみることにしました。原文では”Once there was a tree / and she loved a little boy.”の下りで木が女性であることが即座に読者に伝わるのですが、村上訳も本田訳同様、途中までsheは「木」のままでした。題名も篠崎書林版を踏襲しています。翻訳の名手村上春樹さんがこの本に惹かれた理由がなんとなく分かるような気がします。愛は惜しみなく与え、容赦なく奪うといいます。与え続ける木の存在に無私の愛を息子に注ぐ母親の姿がダブります。育児放棄や幼児虐待のニュースが相次いでいますが、年若い両親がこんな絵本を手にとって子に読み聞かせしたならば<無条件の愛>を注ぐ歓びに気付いてくれるのではないでしょうか。切り株だけになった木に座り続ける老人にあたなは何を感じますか?本書は「大人の絵本」というよりも「大人になるための絵本」です。秋の夜長に不朽の絵本に再会して献身とは何かを深く考えさせられたのでした。

おおきな木

おおきな木