「サウルの息子」〜過酷な運命を背負ったゾンダーコマンドという存在〜


WOWOW初登場の「サウルの息子」を視聴したので記事をアップしておきます。アウシュビッツ解放70周年を記念して制作され2015年に公開されたハンガリー映画です。第86回カンヌ国際映画祭グランプリを受賞した作品でもあります。この作品でデビューを果たしたネメシュ・ラースロー監督は、ホロコーストで家族を失った過去があるといいます。

映画の冒頭、衝撃的内容のスーパーが映し出されます。

「彼らは他の囚人たちと引き離され数か月間働かされた後、抹殺される」

強制収容所には、他の囚人と引き離され使役されるゾンダーコマンドと呼ばれる労務部隊が存在しました。ガス室に送り込まれるユダヤ人の過酷な運命を描いた映画は数え切れませんが、一方で、囚人でありながら虐殺された同胞の死体処理に従事する人々がいたことはあまり知られていません。汚れ仕事に手を染めないナチスの下で、囚人を監視する役割を果たす代償として使役を免れ食料も優遇されたカポとはまた異なった存在です。命を長らえた囚人の間に何段階もの格差を設けて、ヨーロッパ各地から移送されてくるユダヤ人を効率的に管理しようとするナチス親衛隊の狡知に唖然とさせられます。

本作の主人公は、アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所でゾンダーコマンドの一員として働かされるハンガリーユダヤ人サウルです。囚人服の背中に大きな赤いバツ印をつけられたサウル、その表情はまるで凍りついた仮面のようです。ある日、サウルは、ガス室に送り込まれたにもかかわらずまだ息のあったひとりの少年を、解剖のためにユダヤ人の囚人医師のもとに引き渡す役目を命じられます。この少年をサウルは息子だと確信します。

ユダヤ教の教義に則って息子を弔いたいと願うサウルは、極限状況にある収容所内で聖職者ラビを探しまわります。サウルのこうした行動は、彼に同情を寄せるゾンダーコマンドにさえ次第に疎ましく思われるようになります。

そんなゾンダーコマンドに過酷な運命が一日一日と迫ってきます。来る日も来る日も殺戮は止むことがありません。極限状態に置かれたひとりの人間が刹那刹那をどう生きたのか、自分ならどう生きるべきなのか、あらゆる場面で観る者が想像力を試されるそんな映画でした。