原鉄道模型美術館の魅力


シルバーウィークを利用して、横浜駅にほど近いビルの一角にある原鉄道模型博物館を訪れました。施設もコレクションも桁違いのスケールで、いち鉄道マニアが一代で収集したしとは到底思えません。「いちばんテツモパーク」と呼ばれる鉄道模型ジオラマの総面積は310平方メートルに及び、鉄道博物館さいたま市)のジオラマ(総面積200平方メートル)を凌駕しています。

それもそのはず、コレクターの故原信太郎(はらのぶたろう)氏は只者ではありません。コクヨ元専務という経歴からサラリーマンとして成功されたことは分かりますが、どうしてどうして生家もとびきりの資産家だったようです。原少年が慶應幼稚舎に通う時分には、ツケで鉄道模型を購入することが出来たというのです。総理大臣の月俸に相当するお値段の鉄道模型を祖母にねだって買ってもらったという武勇伝!?には開いた口が塞がりませんね。

ただ、彼の凄いのは、単なるお金持ちのボンボンではないところです。東工大では機械科に進み、卒業後はコクヨのエンジニアとして研鑽を重ね、数々の特許を取得し社業に貢献します。その傍ら、世界各国の鉄道に乗車し、新線が出来ると一番切符(14歳のときに現京王井の頭線の一番切符を入手したときのエピソードはふるっています)を買うために、会社を休んでまで駅構内に陣取ります。

そして、原氏は自ら鉄道模型の制作に乗り出します。こだわったのは本物の鉄道の走りを実現すること。架線集電、鉄の車輪、惰力走行はすべて彼のこだわりの成果に他なりません。金持ちの道楽という形容は原氏のコレクションには当て嵌まりません。

この8月にJR九州が運行を開始した「或る列車」(2両編成)は、水戸岡鋭治氏が原氏の模型(同館蔵)をお手本にデザインしたもので明治期の幻の豪華列車を復元した格好です。外装の唐草模様や内部の格天井は贅のかぎりを尽くした感があります。原氏も草葉の陰でさぞや喜んでいることでしょう。

今年、寝台車がとうとう姿を消してしまいました・・・・。原鉄道模型博物館は往時の鉄道文化を偲ぶ貴重な施設として、今後益々光芒を放つことでしょう。

スーパー鉄道模型 わが生涯道楽 (講談社+α新書)

スーパー鉄道模型 わが生涯道楽 (講談社+α新書)