オルセー美術館の挑戦

「伝統」と「革新」、歴史はこの2つの相対峙する営みを交互に繰り返しながら、新しい文化を形成してきたと云っていいでしょう。

ミッテラン政権下誕生したオルセー美術館が昨年11月にリニューアルオープンし大きく変貌を遂げたと耳にしていたので、今回のパリ観光からオルセーを外すわけにはいきませんでした。

オランジュリー(今やオルセーの傘下にあります)でモネを観た後、ラッシュでオルセーを目指しました。入館して先ず気づいたのは館内の明るさ、自然光が巧みに取り入れられていて、ギ・コジュヴァル館長が以前日経紙面のインタビューで説明されていたとおり、館内は「温かみのある雰囲気」に包まれていました。床はフローリングに変り、改修の目玉「壁の色」もグレーやブルー(写真はルノワールの「ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会」)へと変化し印象派後期印象派の絵がより身近に感じられるようになりました。まるでリビングでお気に入りの絵画を観るように。現代アートの展示空間ホワイトキューブとは好対照です。鑑賞の合間に腰を下ろすためのベンチは、日本人アーティスト吉岡徳仁作、流水をイメージしたガラス製のベンチも見事な展示作品でした。

凱旋門からスタートしたその日の観光は、夜間開放のルーブル見学(〜21:45)まで目白押し、さすがにくたびれたので大時計裏のカフェでスイーツを頂きながらひと息つくことに。カフェのオレンジ色を基調とする内装を手掛けたのはブラジル人のカンパーナ兄弟、少々落ち着きませんでしたが地元パリジャンには好評のようです。

古い価値観に固執せず「革新」を目指して挑戦を続けるオルセー美術館。背後に、歴代の大統領が文化政策遂行にあたって果敢な挑戦を重ねてきた歴史があります。ミッテランがジャック・ラングを文化相に据えてグランプロジェを推進したように、ミッテラン以来の左派オランド政権も大胆な文化政策を打ち出してくるかも知れません。変貌するパリの魅力に抗えないからこそ旅行者は幾度もパリを訪れたくなるのです。

フランス人のお昼休みと食文化

モン・サン・ミッhシェルの島内にある郵便局から試しに絵葉書を自宅宛て送ったところ、5日で届きました。メール浸透ですっかり手紙文化が廃れてしまいましたが、旅先から現地の消印のある絵葉書が届いた瞬間の温もりは格別だとは思いませんか。絵葉書はどこの観光地でも売られていますが、文字が綴られ投函されると別物になりますね。旅先から絵葉書下さる方歓迎です。

モン・サン・ミッシェルの対岸で1泊したのでその日は2回目の修道院見学。見学後、再び郵便局前を通りかかったところ、入口は閉まっていて12:00〜14:00は休業中という看板が掛けてありました。労働法で2時間の昼食休憩が認められているからでしょう。フランスの田舎に行くと、今でも、子供たちが学校から自宅に戻って昼食をとる習慣が残っているようです。以前、パリ出張時に「美味しい牡蠣を食わせる店があるから」とフランス人の同僚が近くの洒落たレストランに連れ出してくれたとき、メインに1時間半、デザートに30分余りとたっぷり昼食を楽しんだことを思い出しました。優雅なランチタイムに想いを馳せているうちに、帰りのバスに乗り込む時間が迫ってきました。

復路の現地ガイドはTTさんと名乗るフランス在住14年の教員生活の長い方でした。車中で面白い蘊蓄話をご披露下さったお蔭で、4時間30分余りのバス移動も退屈せずに済みました。くだんのTTさん、英語を学び始めたばかりの頃、supperとdinnerの違いが知りたくて、テストで使い分けをして採点を待ったそうです。結果はいずれも正解、これには相当失望したそうです。

西洋諸国がおしなべてそうであったように、フランスも19世紀初頭までは2食文化で昼と夜しかなかったそうです。今でも2食文化圏は少なくありませんが、1日の食事のなかであくまで昼がメイン、古フランス語ではdisner(デジュネ)ということになります。disner は、desjeuner のような形を縮めてできたと考えられますが、des[dis] は「反対の動作」「やめる」の意味を表し、jeuner の部分は「断食をする=fast」という意味なのだそうです。

エリート支配階層は1日2食が基本、被支配階層の民衆になかには3〜4食摂る習慣があったのだとか。そんな歴史的な背景から、現在、フランス語で朝食はプチ・デジュネ、昼食はデジュネ、夕食はディネ、夜食がスーペとなっています。目から鱗でした。