読書

"The Remains of the Day" by Kazuo Ishiguro

昨夜、PCに向かっていたら日経電子版のヘッドラインに<カズオ・イシグロ ノーベル文学賞受賞>とポップが現れ、一瞬、手が止まりました。『日の名残り』を読んで以来、ひそかに愛読していた作家の受賞だったからです。普遍的な文学性と緻密な文体を評価した…

リベラル派はお断り〜希望の党の選別基準〜

民進党が看板を投げ捨てて<希望の党>に合流するとは、さすが魑魅魍魎が棲むという永田町、ただ看板を掛け替えたにすぎないように思うのは自分だけでしょうか。朝日新聞あたりが<野合だ>と批判するかと思いきや今回は沈黙、むしろ論評は好意的ですらあり…

石牟礼道子の『苦海浄土』〜100分de名著(2016/9)より〜

この8月に発効したばかりの「水銀に関する水俣条約」の第1回締約国会議が24日、スイス・ジュネーブで開会しました。議場で「水俣病は終わっていない」と訴えたのは、熊本県水俣市の胎児性水俣病患者の坂本しのぶさん(61)でした。岩波新書に同名の著作があり…

開館初日に漱石山房記念館を訪ねて

待望の新宿区立漱石山房記念館開館の日を迎えました。今朝は早めに朝食を済ませて鞄にスマホと『漱石の思い出』を突っ込み、JR中央線に飛び乗りました。中野で地下鉄東西線に乗り換え早稲田で下車、漱石山房通りを歩いて、現地には開館1時間前に到着しました…

確かに人生はオプションBの連続だ、けれども・・・

フェイスブックのCOOシェリル・サンドバーグが、夫デーブの急死からどのように立ち直ったかを克明に綴った『OPTION B』(共著者は心理学者アダム・グラント)を読んで、確かに人生はオプションBの連続だと再認識させられました。仕事上の挫折や失恋の痛手と…

手書きポップに惹かれて@ブックファーストアトレ吉祥寺店

書店の新刊書コーナーや企画コーナーで出来栄えのいい手書きポップを見つけると、丹念に読むことにしています。ポップとはPoint of Purchase Advertisingのことですから、一見して潜在読者層を引き寄せる魅力を備えていないとそもそも体をなしません。その魅…

ヴァージニア・リー・バートンのちいさいおうち展(後編)

男の子ふたりに恵まれたジニーはその息子たちのために絵本を書き始めたのだそうです。長男アリスのために『いたずらきかんしゃちゅうちゅう』(村岡花子訳)を、そして次男マイクには『マイク・マリガンとスチーム・ショベル』(石井桃子訳)を書き上げたといい…

ヴァージニア・リー・バートンのちいさいおうち展(前編)

大人になっても手離せない絵本のひとつがヴァージニア・リー・バートンさんの『ちいさいおうち』です。ときどき、HOUGHTON MIFFLIN COMPANY版を手にとって頁をパラパラするだけで懐かしい感覚に浸れるから不思議でなりません。そんな大好きな絵本にまつわる…

人工知能はどこまで進化するのか?

先月27日、米グーグル傘下の英ディープマインド社が開発したAI「アルファ碁」が中国の最強棋士に3戦全勝して、改めて人工知能の凄さを世界に見せつけました。完膚なきまでにうちのめされた柯潔九段は、終局後「もうつらい思いはしたくない」と会見で述べてい…

『ツバキ文具店』に本屋大賞を差し上げたい!〜放映中のドラマも見逃せない〜

2017年の本屋大賞は恩田陸の『蜜蜂と遠雷』でした。打倒直木賞を謳い文句に2004年にスタートした本屋大賞も今年で14回目。同作品が直木賞とW受賞したため、知られていない本を発掘するという本来の意義が失われたと揶揄する声も聞こえています。直木賞へのア…

『季題別中村草田男全句』を購読する

長谷川櫂の『俳句の宇宙』(花神社)以来でしょうか、久しぶりに俳諧に関する書籍を購入しました。大型書店に出向かないかぎり、句集や歌集なんて手に入りません。中村草田男の全句集が刊行されたことを知り、早速買い求めました。昭和の俳人で誰が好きかと問…

『野村證券 第2事業法人部』で振り返るバブル期の証券営業

著者は、2011年に発覚したオリンパス巨額粉飾事件で粉飾の指南役と名指しされた横尾宣政氏。翌2012年に証取法・金商法違反容疑で逮捕され、1審・2審共に有罪判決を受けて、現在最高裁に上告中です。腰巻には「バブル期の野村證券でいちばん稼いだ男」とあり…

プレバトで知った俳句の魅力

録画しておいた1月5日放送の「プレバト!!新春3時間SP」を見て、芸能人の作った句の出来栄えに思わず唸ってしまいました。お題は「新春の富士山」、毒舌先生こと夏井いつき先生によれば、普く知られた題目だけに却って句作が難しいのだそうです。そんなハード…

法的救済に期待する勿れ〜書評『絶望の裁判所』〜

邦銀を辞めて外資系金融機関に転職してまもない頃、法曹を目指して予備校に通っていた時期があります。ウィークディの夜は講義があり週末は答練に費やしていたので、今思えばタフなダブルライフを過ごしていたことになります。程なく海外赴任が決まって、法…

元英国人アナリストの日本人への不満〜書評『新・所得倍増論』〜

掲題著者デービット・アトキンソン氏は、バブル崩壊後の日本の金融機関が抱える巨額の不良債権問題を指摘して、一躍有名になった元ゴールドマンサックス証券の金融アナリストです。リーマンショックの前年、同社を退社して、2009年に小西美術工藝社(本社港…

『最後の秘境 東京藝大』を読んで知るアーティストの生態

筆者の二宮敦人氏は、東京芸術大学(以下、「藝大」)に通う妻の浮世離れした暮らしぶりに興味を覚え藝大に潜入し、未来の芸術家の卵に突撃インタビューを敢行した成果を基に、本書を著します。天才たちのカオスの日常という副題のとおり、アーティストの生…

トランプ氏当選後のメディア報道を検証する

超大国アメリカの次期大統領がトランプ氏に決まり、テレビも新聞も大方の予想を裏切る形でトランプ氏が大統領選を制した理由を探ろうと、連日、有識者の様々なコメントを報じています。 トランプ氏の当選が確実になったとき、同級生が「今回ほどポピュリズム…

戸田奈津子の字幕に物申す〜「地獄の黙示録」から〜

今年もあと2ヶ月、・・・陽の落ちるのが早いこと!誰が考案した言葉なのか分かりませんが、釣瓶落としの秋とは上手い形容ですね。深夜、BS朝日でスイスインドアの決勝戦を観戦し終わったあと、地上波に切り替えないでおいたら、翌日、字幕翻訳者で知られる戸…

御嶽山大噴火の教訓

2年前の9月27日11時52分、突然、御嶽山が噴火して63名の登山者が命を落としました。そのうち、5名のご遺体は今も見つかってはいません。友人の後輩3人もこの噴火に巻き込まれて、帰らぬ人となってしまいました。今も噴石や火砕流・火山ガスの危険があるため…

書評:『医者とはどういう職業か』

医者や刑事を主人公に据えたドラマは枚挙にいとまがありません。交番のおまわりさんならいざ知らず、刑事となるとその実像はなかなか見えてきません。いつの世も刑事ドラマの類いが、凶悪犯罪と無縁の日常生活を送っている一般視聴者の関心をさらうのには合…

エマニュエル・トッド著『問題は英国ではない、EUなのだ』を読む

ここ数年、フランス出身の論客の活躍が目立つように思います。2014年暮れに話題になったトマ・ピケティの『21世紀の資本論』に続いて、近年、仏歴史学者のエマニュエル・トッド氏が相次いで刺激的なタイトルの著作を上梓しています。『グローバリズムが世界…

映画『エヴェレスト 神々の山嶺』で気になったこと

米国便や欧州便ともなると飛行時間は優に12時間を超えるので、機内でなかなか眠れない搭乗者にとってオンデマンドで好きな時に楽しめる映画プログラムは大変有り難いサービスです。1〜2本観てからアルコールを注文し、ほろ酔い気分で再び数本映画鑑賞すると…

エクスナレッジの『世界で最も美しい書店』を開いてみる

ここ数年、エクスナレッジという出版社が刊行する世界で一番美しい・・・と題したビジュアル本を本屋さんの店頭でよく見かけるようになりました。建築・インテリア分野の出版物を手掛ける「建築知識」という名の老舗出版社が、2000年に社名変更してエクスナ…

池井戸潤新作『陸王』は『下町ロケット』を凌ぐ傑作だった!

池井戸潤の新作長編『陸王』は600頁近いボリュームながら期待を裏切らない傑作でした。これまでの池井戸本とはひと味違った昭和レトロな装丁も、読了後改めて眺めてみると内容にぴったりです。創業100年の老舗足袋製造業者が会社存の続を賭けて畑違いのラン…

『牧野富太郎自叙伝』を読む〜牧野記念庭園と共に〜

小学生の頃、庭いじりが好きだった祖父の書棚で『牧野植物図鑑』を目にしたことをきっかけに、牧野富太郎(1862-1957)が世界的植物学者だと知りました。男の子は、植物よりも動物や昆虫に圧倒的に興味をそそられるものですが、自分は新種の植物を見つけて系…

現代語訳『十牛図』を読む

待望のGWがスタートしました。新緑が目に眩しい季節ですからアウトドアライフに7割、残りを身辺整理と読書に充てようと思っています。初日は生憎の強風でしたが、今のところ、晴天に恵まれていますね。昨夜は、図書館から借りてきた『十牛図』(水野聡訳・玄…

サファリツアー直前にアフリカ野生動物図鑑をチェック

未踏の地アフリカ・ケニアを訪れる前に、携行可能な野生動物図鑑を探しにジュンク堂へ。アフリカと野生動物という2つのキーワードを頼りに、書店で検索してみると、引っ掛かったのは僅かに数冊。半ば諦め気分で該当書籍をあたってみると、ほどなく、恰好の一…

『下町ロケット2』〜医療機器開発という着眼〜

直木賞受賞作の『下町ロケット』で新境地を拓いた池井戸潤の同書続篇が刊行されたので、早速読んでみました。テレビ放映が進行中ですので、ネタバレはなるべく避けて、続篇のテーマである医療機器の開発というテーマを掘り下げてみようと思います。前回作は…

『いちえふ』という職場〜廃炉までの果てしない道のり〜

昨日、福島第一原発事故のあと作業に従事し白血病を発症した元作業員を厚労省が労災認定したというニュースが報じられました。原発事故への対応に伴う被曝と疾病との因果関係が肯定されたのは、労災認定上、これが初めてだそうです。1976年に定められた労災…

『原発敗戦』で知るメルトダウンの真相

作家・半藤一利氏との特別対談収録という帯に惹かれて、船橋洋一著『原発敗戦』を手にとってて以来、原発関連の書籍を読み漁っています。ひんやりとした空気が支配する10月を迎え、読書の秋も本番、この機に4年半を経過した福島原発の負の連鎖の真相をブログ…