読書
最近、村上春樹の小説は進んで読む気がしません。2009年〜2010年にかけて刊行された『1Q84』シリーズを分岐点に、村上ワールドからは遠ざかっています。デビュー当時の瑞々しい作品群はともかく、今では、肩の力を抜いた軽快な語り口のエッセイやマラソン・…
今年もあと3ヶ月半、2月下旬から俄かに拡大の一途をたどったコロナ禍は8ヶ月目に突入したことになります。マスク着用マストの不自由なニューノーマルは一体いつまで続くのでしょうか。副作用のないワクチンが一刻も早く開発され、国民に行き渡ってにピリオド…
TV番組は専らタイムシフトで視聴することにしています。CM時間帯を「スキップ=CM飛ばし」できればかなりの時間の節約になるからです。ところが、時々、飛ばすのが勿体ないような秀逸なCMに出喰わすことがあります。そんなときは繰り返し再生して楽しむこと…
8/10の昨日は7回目の「山の日」。五輪特措法で2020年は1日前倒しになったのでしたね。「海の日」が祝日なら「山の日」もあって良いと思います。さて、百名山にアタックする場合、登山の前後どちらかで登山者のバイブル『日本百名山』(1991年刊行の新装版)と…
今月の「100分de名著」は吉本隆明の『共同幻想論』(1968年)を取り上げています。戦後最大の思想家と言われる吉本隆明の難解極まる代表作を再読する機会を番組が与えてくれたことに感謝しています。昨年、NHK出版から刊行された『考える教室 大人のため哲学入…
長きにわたって沁みついた島国根性のせいでしょうか、日系メディアの海外情報発信力は頗る頼りなく、英国に限らず海外に居住する日本人の暮らしぶりは一向に伝わってきません。比較的感染者の少ない日本に比べ、遠い異国の地に暮らす在留邦人は、オリンピッ…
WOWOWの予告編でプロ棋士瀬川晶司さんをモデルにした映画だと知らなければ、危うくスルーするところでした。『泣き虫しょったんの奇跡』(2018年9月公開)は、現在プロ棋士として活躍中の「しょったん」こと瀬川晶司さんの自伝に基づいています。将棋界では今…
朝日新聞夕刊に連載中の「三谷幸喜のありふれた生活 (#995)」(2020/6/11)を読んで、三谷幸喜さんを幾度も唸らせたという向田邦子さんについて触れてみたくなりました。当代きっての喜劇作家が向田邦子さんを絶賛するとは意外な感じもしますが、連載エッセイ…
最近、WOWOWのオリジナルドラマ「鉄の骨」(全5話)が完結しました。これまで数々の池井戸潤作品がドラマ化されていますが、失敗作を観たことがありません。映像化によって原作の持ち味が損なわれるケースも散見されるだけに、池井戸ドラマの高視聴率は驚異的…
NHK BSプレミアム新日本風土記スペシャル「松本清張 鉄道の旅」(2020/5/8放送) を見ながら、松本清張は同時代の世相や空気を切り取る才能に長けた作家だなとあらためて感心しました。おまけに、ブックタイトルの付け方が実に上手い。「点と線」、「ゼロの焦…
十数年前に『受験の神様』(坂口幸世著・朝日新聞社刊)を読んだとき、深く脳裏に刻まれた蓮實重彦東大総長の卒業式告辞(2000年3月25日)を引用します。「高等教育期間が授与する三つの学位の一つである学士という称号の品質保証期間は、せいぜい三年、長くて五…
緊急事態宣言発出後、大手書店は軒並み休業。やむなく、吉祥寺で唯一営業している小規模書店へ向かいました。NHKテキスト(ラジオ)「実践ビジネス英語」5月号を買うためです。ところが、普段なら平積みしてあるはずの語学テキスト5月号が殆ど見当たりません…
『つばき文具店』が2017年の本屋大賞候補にノミネートされたとき、本ブログでも取り上げたように自分のなかでは一押しだったのですが、結果は残念ながら4位でした。今回の意欲作『ライオンのおやつ』こそ、大賞1位にと念じていましたが惜しくも2位、1位はBL…
主人公は25歳、心優しき研修医1年目の雨野隆治。通称アメちゃんの出身地は鹿児島県、勤務先は東京下町にある牛之町病という設定です。鹿児島大学医学部卒業後、都立駒込病院で研修した作者中山祐次郎さんの実体験が色濃く投影していることは間違いありません…
2月29日(土)、<作家・大西巨人-「全力的な精進」の軌跡->展を見ようとと二松学舎大学を訪れました。午後に予定されていた「父親としての大西巨人」と題する息子大西赤人氏の講演は、新型コロナウイルスの感染拡大防止措置の一環で中止になってしまいまし…
昨年9月に出版された本書は、すでに50ヵ国以上で翻訳され世界的に注目を集めており、2020年の今年、BBCドラマ化が予定されています。原題は”The Tatooist of Auschwitz”、ロンドンで出版されました。著者ヘザー・モリスは、過酷な運命を生き抜いたルドウィグ…
会期終了間際に、JR目黒駅西口徒歩1分の好立地に所在する久米美術館を訪れました。この美術館をご存じの方は相当な博物館通ではないでしょうか。開館は1982(昭和57)年10月。過去の展覧会記録を遡ると、東京美術学校教授も務めた洋画家久米桂一郎氏(写真下…
2019年は中島敦生誕110年。明治42(1909)年生まれの作家といえば、早逝した中島敦(1909-1942)や太宰治に加え、松本清張、大岡昇平、埴谷雄高と錚々たる顔ぶれが頭に浮かびます。生誕から100年以上経つというのに、中島敦の『山月記』や太宰治の『走れメロ…
原題は”The Climb”、日本版副題はエヴェレスト大量遭難の真実。1996年5月10日、8名の登山家の命を奪ったエヴェレスト史上最悪の遭難事故の真相に迫ったノンフィクションです。20年以上前に読んだ記憶はあるのですが、残念ながら、今や本書は絶版。映画「エヴ…
橘玲さんは、かねてより、サラリーマン人生の危うさに警鐘を鳴らしてきた論客のひとりです。本書はタイトルこそセンセーショナルで、「上級国民」は事実上の「一夫多妻」なのだと指摘して興味をそそろうとしているかに見えますが、内実は至極真っ当な現代社…
2017年に放送された NHK 連続ドラマ「ツバキ文具店〜鎌倉代書屋物語〜」(全8回)は、手っ取り早い通信手段であるメールやLINEが隆盛の今日、手紙の奥深い魅力を再発見させてくれる滋味溢れる内容でした。視聴率は平均で5%後半。民放の人気ドラマに比べるとか…
先週末、日本近代文学館(目黒区駒場)で開催中の「生誕110年太宰治 創作の舞台裏」展を訪れました。界隈にはお気に入りの日本民藝館がありますから、駒場は決して疎遠な場所ではありません。ところが、ついでに立ち寄ればいいものの、日本近代文学館とはずい…
『サバイバル登山家』の著書で知られる服部文祥さんが日経(夕刊)に寄稿されているエッセイを毎週楽しみにしています。服部さんは1999年から装備を切り詰め食料を現地調達するサバイバル登山を実践なさっている特異なアルピニストです。厳しい自然のなかで…
観終わった直後に、ふっと頭に浮かんだのは「滋味あふれる」という言葉。映画「日日是好日」は、普段なかなかめぐり逢えない滋味掬すべき作品でした。豊かで深い味わいのあるこの作品は、茶道のお師匠さん武田先生を樹木希林さんが演じたからこそ、奇蹟的に…
最近、加藤文太郎の生涯を描いた伝記小説『孤高の人』(新田次郎著)を読み終えたところです。文庫二冊で千頁に及ぶ大著だけに、かなり読み応えがありました。兵庫県浜坂町に生まれた加藤文太郎は、大正12(1923)年ごろから山歩きを始めます。小説の冒頭、ナッ…
来月下旬の一泊二日燧ケ岳登山を控え、山の本をあれこれ読み漁っています。たまたま、古書店で目に留まった『ミニヤコンカ 奇跡の生還』(yama-kei classics版、ヤマケイ文庫、底本は1983年1月刊行)を購読し、かくも壮絶な生還を果たした日本人アルピニストが…
最新作の『下町ロケット ゴースト』に再びパテントローヤー神谷弁護士が登場します。最新作『下町ロケット ゴースト』の内容は、今秋刊行される『下町ロケット ヤタガラス』の前篇という位置づけで、あらたに登場したギアゴーストというベンチャー企業の共同…
先月下旬、成蹊大学で開講中の<中国>をテーマにした2018年度前期公開講座(写真下は成蹊大学のキャンパス)の初回、「村上春樹にみる中国と日中戦争」を聴講してきました。村上作品にはしばしば中国が原風景として取り上げられます。アメリカ文学の翻訳者…
NHKは実にいい番組を作ってくれるものだと改めて唸ってしまいました。新シリーズの放映スケジュールは以下のとおりです。4/29 9:00〜9:55 「第1集 世界最大!!サムライが築いた“水の都”」 5/27 9:00〜9:49 「第2集 驚異の成長!!あきんどが花開かせた“商都…
高山寺石水院の壁に「阿留辺幾夜宇和(あるべきやうわ)」と題された掛板が掲げられています。その言葉に続けて、夕方から早朝にかけて修行僧として守るべき行儀作法が事細かに記されています。新年になって、白洲正子さんの『明恵上人愛蔵版』を読み返して…