映画

映画「3月のライオン」タイトルの意味するところ

劇場公開から1年、WOWOWに「3月のライオン」が登場したので早速鑑賞しました。2017年といえば、年央に藤井聡太四段(14歳)が前人未到の29連勝を達成した年。「3月のライオン」の主人公桐山零は中学生でプロ入りを果たした将来有望な棋士、まるで藤井聡太を…

メディアと権力の闘いを描いた「ペンタゴン・ペーパーズ」

米国の歴代政権が隠ぺいしてきたベトナム戦争の実情をめぐる不都合な真実、それは「泥沼化したもはや勝てない戦さ」だと知りながら、時の政権が敗戦処理をしたくないばかりに次の政権へと先送りしてきたことでした。<70%が政府の名誉のため、20%は共産主…

『火垂るの墓』の高畑勲監督の死を悼んで

日本のアニメーション界を長らく牽引してきたスタジオジブリの高畑勲監督が享年82歳で永眠されました。巨星墜つとは高畑監督のような方がこの世を去ることを云うのでしょう。高畑監督の代表作『火垂るの墓』を初めて観たときの衝撃は言葉にならないくらい強…

現代史の記録者としてのクリント・イーストウッド監督に脱帽!

<名優必ずしも名監督にあらず>という俗諺を完膚なきまでに粉砕してくれる映画監督のひとりがクリント・イーストウッド監督ではないでしょうか。天は二物を与えずといいますが、今年88歳を迎える監督のマルチタレントには些かの綻びも見えません。最新作「1…

タトゥーの記憶を呼び覚ます映画「手紙は憶えている」(原題:Remember)

つい最近、英国朝刊紙のデーリー・テレグラフのオンライン版で配信されたアウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所で生まれた入れ墨係と少女との出会いの記事を読んで、「手紙は憶えている」という映画を紹介してみたくなりました。2016年に公開されたホロコ…

ボジョレ・ヌーヴォー解禁日に観た「ブルゴーニュで会いましょう」

昨夜は、2年前に観そびれた映画「ブルゴーニュで会いましょう」を鑑賞しました。たまたまその日はボジョレ・ヌーヴォーの解禁日、ブルゴーニュの至宝と呼ばれるネゴシアン、ドミニク・ローランのボジョレをゲットしたばかりで、うってつけのワイン日和となっ…

映画「ダンケルク」に見る撤退戦の意義

お昼過ぎまでボランティア、その足でTOHOシネマズ日本橋へ。TCXと呼ばれるエクストララージスクリーンを擁した都内でも屈指の設備を誇る映画館だけに、「ダンケルク」のような史実に基づいた戦争映画を見るにはうってつけのスポットなのです。一度、IMAXやTC…

島尾ミホ原作『海辺の生と死』の映画化

舞台は奄美群島の加計呂麻島(かけろまじま)、第二次世界大戦末期に朔中尉率いる海軍魚雷艇部隊がやってきます。本土から遠く離れた島には子供たちの島唄がこだまし、平和でおだやかな暮らしが保たれています。朔中尉(永山絢斗)は九州帝大で東洋史を修め…

シン・ゴジラ≒福島第一原発からクライシスマネジメントを学ぶ

劇場で見そびれた「シン・ゴジラ」(2016年7月公開)をwowowで視聴、5.1chに切り替えるとサブウーハーからはゴジラの跫音が重低音でリビングに響いてなかなかの迫力でした。エヴァの監督庵野秀明が総監督・脚本を務めたため、ゴジラファンのみならずアニメ世…

「スポットライト 世紀のスクープ」を観て〜地味さに好感〜

今年の第89回アカデミー賞授賞式で起きた前代未聞のハプニング、息を呑んで発表の瞬間を待っていた候補作の関係者はもちろん映画ファンもさぞや驚いたに違いありません。注目度の最も高い作品賞発表の場面で、プレゼンターが受賞作「ムーンライト」を誤って…

「サウルの息子」〜過酷な運命を背負ったゾンダーコマンドという存在〜

WOWOW初登場の「サウルの息子」を視聴したので記事をアップしておきます。アウシュビッツ解放70周年を記念して制作され2015年に公開されたハンガリー映画です。第86回カンヌ国際映画祭グランプリを受賞した作品でもあります。この作品でデビューを果たしたネ…

日本政府がシリア難民を300人受け入れるというが・・・

新聞のヘッドラインに目を奪われると本質を見誤ることがあります。今年から5年間で日本政府が300人のシリア難民を受け入れるという最新記事をよく読むと、すでに日本で学んでいる留学生やその家族を内乱の続くシリアへ帰国させないという措置であることに気…

「この世界の片隅に」〜銃後の暮らしを描いた佳作〜

「昭和20年、広島・呉 わたしはここで生きている」というポスターのサブタイトルがじんわりと心に染み入るような映画でした。乏しい製作費をクラウドファンディンで賄ったこの作品に徐々に共感の輪が広がり、全国公開に至ったと聞きます。原作はこうの史代さ…

映画「エゴン・シーレ 死と乙女」と等身大の鏡

エゴン・シーレ(1890-1918)の絵に強く惹かれるようになったのはいつ頃からだろうかと気になって、書棚からシーレの評伝を幾つか引っ張り出してきて奥付けを確認してみました。『エゴン・シーレ』(フランク・ウィットフォード著・講談社)(1984年1月) 『…

「アイヒマンを追え!ナチスがもっとも畏れた男」@Bunkamuraル・シネマ

週末、上映期限の迫った「アイヒマンを追え」を観ようとBunkamuraル・シネマに出掛けました。ドイツ映画賞において最多6部門で受賞を果たした話題作にもかかわらず、都内で上映館は2つしかありません・・・。ナチスドイツ降伏後のドイツ国内における戦争犯罪…

ナチス映画が流行る理由(わけ)

近年、ナチスやヒトラーを扱った映画が次々と劇場公開されています。今年に入ってもその勢いは止まらず、すでに封切された「アイヒマンを追え!ナチスがもっとも畏れた男」をはじめ、2月には「アイヒマンの後継者 ミルグラム博士の恐るべき告発」、夏にはエ…

封切り直前映画「海賊とよばれた男」で気になること

2013年に本屋大賞を受賞した『海賊とよばれた男』(2012年7月刊行)が映画化され、明日から劇場公開されます。主人公の国岡鐵造のモデルは、立志伝中の人物として知られる出光興産の創業者出光佐三氏です。原作本は上下巻で748頁にも及ぶ長編だけに、わずか2…

戸田奈津子の字幕に物申す〜「地獄の黙示録」から〜

今年もあと2ヶ月、・・・陽の落ちるのが早いこと!誰が考案した言葉なのか分かりませんが、釣瓶落としの秋とは上手い形容ですね。深夜、BS朝日でスイスインドアの決勝戦を観戦し終わったあと、地上波に切り替えないでおいたら、翌日、字幕翻訳者で知られる戸…

「ハドソン川の奇跡」の検証(ネタバレなし)

2009年1月15日にラガーディア空港を飛び立ったばかりのUSエアウェイズ1549便がバードストライクに遇ってハドソン川に緊急着水した航空機事故を基に制作されたのが「ハドソン川の奇跡」です。乗客・乗員155人全員が無事生還できたことから、当時、マスメディ…

「K-19」 (2002年公開)の今更ながらの映画批評

2002年に公開された「K-19」を今頃になってWOWOWで鑑賞して、いろいろ感じることがあったのであらすじと共にご紹介しておきます。見損ねたのは公開された2002年に転職したため。振り返ると長期出張があったり仕事がテンパっていたりした年は、例外なく、プラ…

映画『エヴェレスト 神々の山嶺』で気になったこと

米国便や欧州便ともなると飛行時間は優に12時間を超えるので、機内でなかなか眠れない搭乗者にとってオンデマンドで好きな時に楽しめる映画プログラムは大変有り難いサービスです。1〜2本観てからアルコールを注文し、ほろ酔い気分で再び数本映画鑑賞すると…

”The Monuments Men"の日本公開に寄せて

2014年に米国で製作された映画”The Monuments Men”(日本語タイトルは「ミケランジュロ・プロジェクト」)の本邦劇場公開が中止になって2年、このたびWOWOWでリリースされたのでじっくり自宅鑑賞したところです。昨年秋、一部の劇場でようやく上映されDVDも…

美術ファン必見の「ナショナル・ギャラリー 英国の至宝」

巨匠フレデリック・ワイズマン監督の映画「ナショナル・ギャラリー 英国の至宝」を、最近、WOWOWオンラインで視聴することができました。昨年1月、Bunkamuraル・シネマで上映されたとき見逃してしまったのでいい機会でした。 この映画は、観客が普段窺い知る…

冷戦下の実話に基づいた傑作「ブリッジ・オブ・スパイ」

昨年11月に放映されたNHKスペシャル「盗まれた最高機密〜原爆・スパイ戦の真実〜」は、太平洋戦争末期の原爆開発をめぐって繰り広げられた米独ソ諜報戦の知られざる実情を明らかにしてみせました。未だその記憶が覚めないこの時期に、スピルバーグ監督の新作…

ヘレン・ミレン主演「黄金のアデーレ」

大晦日に観た映画「黄金のアデーレ」の感想を記しておこうと思っているうちに、1月3日を迎えてしまいました。2015年は総じて不本意な1年でしたので、申年の今年こそ充実した1年にしたいと思っています。大晦日に映画を観たのは初めての体験。都内上映館がわ…

創造と神秘のサグラダ・ファミリア@恵比寿ガーデンシネマ

記憶にないくらい久しぶりに恵比寿ガーデンシネマを訪れました。今年3月、4年ぶりに復活したのだそうです。吉祥寺のバウハウスシアターといい、都内でもミニシアターはなくなる一方ですから、映画ファンには待望のリニューアルオープンといっていいでしょう…

映画「杉原千畝」〜インテリジェンス・オフィサーの知られざる横顔〜

10年ぶりのスター・ウォーズ新作「フォースの覚醒」を横目に、5日に封切された「杉原千畝」をようやく観ることが出来ました。身辺大掃除の合間を縫っての鑑賞でした・・・。リトアニア領事代理杉原千畝の名前を知ったのは1993年当時だったと記憶しています。…

ついに映画化された『リトル・プリンス 星の王子さまと私』を観て

21日に封切されたばかりの「リトルプリンス」を早速観てきました。『星の王子さま』の愛読者としては、観ないわけにはいきませんからね。これまでにアニメ界の巨人ディズニーが映画化していても決して不思議ではないわけですが(注:オーソン・ウェルズがデ…

「マイ・インターン」初日(一部ネタバレあり)

ロバート・デ・ニーロがアン・ハサウェイと共演すると知って、初日に映画館に足を運びました。華やかなファッション業界を舞台に、72歳になる名優演じるシニア・インターンと「プラダを着た悪魔」で一躍有名になった32歳のアン演じる若き起業家が、様々な難…

1967年版「日本のいちばん長い日」に軍配

終戦記念日の昨日、NHK BSプレミアムで放映された岡本喜八監督の映画「日本のいちばん長い日」を観ました。先週、原田眞人監督による2015年版を観たばかりなので、細部を比較鑑賞できました。総じて、1967年版の出来栄えの方が優れていると感じました。旧作…